変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

【AI時代を生き抜く鍵】リスキリングで唯一無二の存在になる方法Photo: Adobe Stock

リスキリングできない人は、淘汰される時代

 かつては、一つの専門スキルを高め続けることで安定したキャリアを築ける時代がありました。たとえば、弁護士や会計士といった資格取得や、特定分野での経験を積み重ねることで「食べていける」安定感があったのです。

 しかし、現在の世界は大きく変わりました。AI技術の進化、グローバル化、そして多様な働き方が広がる中、一つのスキルに依存するだけでは、競争力を保つことが難しくなっています。環境に合わせてリスキリング(学び直し)できない人は、すぐに淘汰される可能性があります。

 特に日本では、これまで「言語の壁」が国内の労働市場を守る要因となっていました。しかし、高性能な翻訳AIの登場により、定型業務や一部の創造的な仕事まで、コストの低い海外人材にアウトソーシングされるケースが増えています。この流れは加速しており、専門性だけではなく柔軟な適応力が重要視される時代へとシフトしています。

掛け算でつくるユニークな自分

 この変化の波に飲み込まれず、自分の価値を高めるには、スキルを「掛け算」で捉える考え方が鍵となります。異なる分野の知識を組み合わせることで、唯一無二の強みを生み出すのです。

 スキルの掛け算とは、たとえば「医療×デザイン×地域活性化」や「教育×プログラミング×心理学」のように異なる分野の専門性を、自身の経験や興味に応じて組み合わせる発想です。

 筆者の場合は、「東南アジア×経営コンサルタント×ITストラテジスト」というスキルの掛け合わせにより、東南アジア諸国の社会課題を解決するための構想を練り、具体的なデジタル戦略まで落とし込める、といった具合です。

 一つひとつは平凡なスキルでも、掛け合わせることで希少性が生まれます。これからの時代には、一つのスキルに固執してその一点を極めようとするよりも、柔軟に異なる知識を組み合わせることで、自分だけの価値を提供できるようになります。

必要なスキルと不要なスキルを見極める

 この時に気を付けたいのは、「すべてのスキルを自分で身につける必要はない」という点です。

 たとえば、基本的な財務知識は意思決定に必要ですが、財務モデルの詳細な設計は専門サービスに任せる方が効率的です。同じように、ITの基礎知識を持ちながら、実装作業は外部パートナーに依頼することも選択肢として有効でしょう。

 変化の激しい時代で差別化し続けるには、外部のパートナーに任せるスキルと自ら身につけるべきスキルとを明確に見極め、自分自身も時代に合わせて効率的に変化していく柔軟性を持つことが求められます。

 まずは、自分のスキルをリストアップして、どんな掛け算が可能か考えるところから始めてみましょう。アジャイル仕事術では、時代に即した働き方を実現するための方法を多数紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。