変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。
単一の選択肢がもたらすリスク
将棋界を代表する棋士の一人である羽生善治九段は、どんな局面でも柔軟に対応する「オールラウンダー」として名高い存在です。特定の戦法に固執せず、対局ごとに最適な手を選び取るそのスタイルは、現代の不確実なビジネス環境にも多くの示唆を与えてくれます。
予測不可能な今の時代、私たちは日々変化する環境の中で意思決定を迫られています。そうした中、最終的に選べるのは一つだとしても、最初から選択肢が一つしかない状況では、環境の変化に対応できず、結果として成功を手放してしまうリスクが高まります。
例えば、「一つの専門スキル」だけに依存する人は、そのスキルが需要の高い時期には非常に効率的に仕事をこなせるように見えます。
しかし、技術が陳腐化したり、業界が変化すると、仕事を失うリスクが高まります。一方で、他のスキルや資格も身につけていれば、新たなキャリアチャンスをつかむ余地が広がります。
選択肢を一つしか持たないことは、一見すると効率的に見えるかもしれません。しかし、変化が常態化している現代では、それがかえって大きなリスクとなり得るのです。
複数のオプションを生み出す「戦略的思考」
環境の変化に適応するためには、複数のオプションを戦略的に生み出す思考法が重要です。思いつきで選択肢を増やしても効果は限定的なため、ここで役立つのが「軸」を活用したフレームワーク思考です。
例えば、旅行プランを考える場合、目的地を「国内」「海外」「近場」、目的を「観光」「リラックス」「アクティビティ」、期間を「日帰り」「1泊2日」「長期滞在」、さらに予算を「高級」「節約」「バランス型」と設定すると、多様な選択肢が効率よく洗い出せます。これらの組み合わせにより、近場でリラックスする日帰りプランや、海外でアクティビティを楽しむ長期プランなど、幅広い案が生まれます。
この手法はビジネス戦略の策定にも応用可能です。「誰に」「何を」「どうやって」を軸に整理すれば、顧客層、提供価値、実行手段の観点から多角的に考えられるようになります。
こうした戦略的思考を日常的に取り入れることで、単なるアイデア出しから一歩進んだ、具体的で実行可能な選択肢を生み出せるようになります。
選択肢を持つことがもたらす未来
複数のオプションを持つことは、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代において、成功確率を高めるだけでなく、不測の事態への対応力を強化します。
選択肢が複数あれば、一つの方法が失敗しても、すぐに次の手に切り替えることができます。また、新たな視点や軸を取り入れることで、さらに多様な選択肢を生み出すことが可能になります。
選択肢を持つための第一歩は、意思決定の前に「軸」を整理し、その軸に基づいて多様なオプションを検討する習慣を身につけることです。軸に基づき情報を集め、整理し、比較・評価するというプロセスを通じて初めて、論理的な意思決定が可能になります。
アジャイル仕事術では、選択肢を増やす方法をはじめ、働き方をバージョンアップする方法を多数紹介しています。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。