橋下徹大阪府知事(当時)は2008年、「教育非常事態」宣言を発令。大阪の小中学生の学力低下問題を解決すべく、橋下は新自由主義的な教育改革を大胆に推し進め、学校を競わせ、生徒たちを競わせた。だが、学力は伸び悩むまま、高校の不登校者数が全国1位になり、暴力といじめは増加。なぜこうなってしまったのか、新自由主義的な教育改革の問題点を問う。※本稿は、高田一宏『新自由主義と教育改革 大阪から問う』(岩波新書)の一部を抜粋・編集したものです。
全国平均を上回るという
学力向上の目標は達成できず
大阪の教育改革の基本方向を打ち出したのは、橋下徹知事(当時)による「教育非常事態」宣言(2008年)である。その翌年には改革を進めるための具体的な計画「大阪の教育力向上プラン」(2009年)が策定された。このプランは「大阪府教育振興基本計画」(2013年)、「第二次大阪府教育振興基本計画」(2023年3月)へと引き継がれて、今に至っている。
この間、改革の最優先課題として挙げられてきたのは学力水準の向上である。「第二次振興計画」の中で、大阪府教育庁は「府内公立小中学校の学力・学習状況は算数・数学でほぼ全国水準にまで改善している」と総括している。
「教育力向上プラン」は、学力水準の向上について、小・中学生の全教科・区分で「全国平均を上まわる」という数値目標を掲げていた。改革開始後数年間は大阪の学力水準は全国平均に迫ろうとしていたが、最近の約10年間、全国平均との差はほとんど変化していない。
図6-1のように、第一次振興計画初年度の2013(平成25)年度から最終年度の2022(令和4)年度にかけて、算数の対全国平均比(全国平均を1とした時の大阪の正答率)は0.990から0.991になった。数学の対全国平均比は0.955から0.986になった。一方、国語では、小学生の対全国平均比は0.973から0.976、中学生は0.948から0.974になった。
小数第3位までの数字を挙げて学力が上がったとか下がったということにさほどの意味はない。対全国平均比の学力水準はまさに十年一日のごとく、ほとんど変化していないのだから。結局、「全国平均を上まわる」という改革開始時の目標は達成できないままである。
教員の努力不足か、現場の努力を打ち消すような社会的・経済的な要因があるのか。そもそもの数値目標が机上の空論だったのか。伸び悩みの本当の理由は問い直されることのないまま、第二次振興計画の事業計画は「全国の値以上の達成・維持」という成果指標を掲げ続けている。
経済力や教育力などの
家庭に起因する学力格差
改革の中では重視されてこなかったが、学力水準の向上とならんで重要な教育課題がある。それは家庭背景(経済力や教育力)に起因する学力格差の是正である。