今から約10年前に私たちのグループが大阪府内(大阪市は除く)で実施した学力調査によると、1989年から2001年にかけて続いていた学力水準の低下と学力格差の拡大は、2013年には歯止めがかかっていた。学力の平均的水準は「弱いV字回復」、つまり下げ止まりあるいは持ち直しの傾向にあった。学校単位で結果を詳しく分析してみると、学力格差を小さくしている学校の数は、1989年から2001年にかけて大きく減少したが、2013年には増加に転じていた。これらの結果から、低学力層の学力が下支えされたことで、高学力層との格差が小さくなり、平均的な水準も上がったことがうかがえた。
下支え・格差是正をもたらしたのは、おそらく、大きな「改革」などではなく学校現場の地道な努力とそれを後押しする教育行政の力である。大阪では維新の会が主導する教育改革が始まる前から、家庭背景に起因する学力格差を縮小させる努力が続いてきた。新自由主義的な教育改革の中にあっても、格差是正への配慮をうかがわせる施策もあった。それらの取り組みが実を結んだのではないかと私たちは考えた。
改革によって進む
地域間格差の固定化
もっとも、経済的困窮度が特に高い地域の学校では全体的な学力不振が目立ち、過去20数年間で状況はほとんど改善していなかった。学校や教育行政の努力には明らかに限界がある。しかし、それらの学校では、子どものたちの生活と学習をトータルに支える努力が子どもたちの生活の質を向上させたり進路に対する前向きな姿勢を引き出したりしていた。このこと自体は大きな教育成果なのだが、学力向上を重視する風潮の中でなかなか正当に評価されることはない。
では、今、学力の格差はどうなっているのだろうか。家庭背景に関わる格差は検証の参考になる調査がみつけられなかったが、地域間格差については中学生のチャレンジテスト(編集部注/大阪府教育委員会が実施している府内の中学生向けの統一学力テスト)の結果が参考になる。
チャレンジテストの市町村別結果は毎年公開されている。2022年度の中学3年生の結果(国語・数学・英語の合計点)をみると、トップは北摂地域と呼ばれる北部が独占し、トップ10までのうち7つは北摂の自治体である。一方、成績下位10位までの内訳は、河内が5、泉州が4、北摂が1である。地域間格差の構図は改革が始まった十数年前から変化していない。むしろ固定化が進んでいるのではないか。