自然災害から犯罪まで、子どもは日々、あらゆる危険に遭遇する。そうした危険から身を守る方法を紹介した書籍が池上彰総監修『いのちをまもる図鑑』(ダイヤモンド社)だ。
何が起こるかわからない人生、万一への備えが運命を左右することもある。本書は、すべての親子にとって必読の一冊だ。
今回は『いのちをまもる図鑑』の刊行を記念して、著者の滝乃みわこ氏とイラストエッセイスト犬山紙子氏の対談を行った。犬山紙子氏は『女の子が生まれたこと、後悔してほしくないから』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を発刊したばかり。ともに「子どもを守る」ことを徹底的に考え抜いて書かれた両書の著者に、その重要性について語り尽くしてもらった。
(構成/ダイヤモンド社・金井弓子)
右:滝乃みわこ氏 執筆者。著書に『やばい日本史』シリーズ(ダイヤモンド社)、『乙女の日本史』シリーズ(KADOKAWA)、『しろくまきょうだい』シリーズ(白泉社)、『こねこのすりすり』(パイインターナショナル)など。
娘が夢中になった『いのちをまもる図鑑』
犬山紙子(以下、犬山):『いのちをまもる図鑑』が届いたとき、小学2年生の娘が読むかなと思って、朝ご飯を食べるテーブルの上にさりげなく置いておいたんです。そしたら、しれっと全部読んでました。
滝乃みわこ(以下、滝乃):全部!すごいですね。
犬山:さらに学校に持って行って友達に布教して、友達のお母さんから「この本が欲しいって言ってるけど、これでいいんですか?」って連絡がきました。
滝乃:わあ、嬉しい! ありがとうございます。低学年のお子さんも楽しんでくれているのは意外でした。いちおう小学校3年生以上をターゲットに作っていたんですけど、高校生も読んでくれていたりと想定以上に幅広い層に読んでもらえて本当に嬉しいです。
犬山:振り仮名がふってあるので、小学2年生でも全然読めていました。漫画がたくさんあって、漢字にルビがついているのが親切でありがたいですね。
動物の話題で子どもを引き込む構成
犬山:例えば、この本では冒頭で動物の話題からスタートして、子どもの興味を引く仕掛けがあるのも印象的でした。最初から重いテーマだと手に取らない子もいますからね。
滝乃:そうですね、ライオンやクマに出くわしたら? など、子どもが大好きな危険生物の話題からまずは興味を引き、そこから自然と闇バイトや性犯罪、いじめの危険などを学べる流れを作っています。「まじめな本」と感じると読まない子もいるので、なるべく前半はギャグ満載にしています。
この本がきっかけで、親にいじめの相談ができた
犬山:読者が楽しみながら、最終的に「身近な危険」に気づける仕掛けが素晴らしいですね。実際、子どもが自分で手に取って読むことを想定して作られているのが伝わります。実際「『いのちをまもる図鑑』を読んで勇気をもらった」と言って、大人にいじめの相談してくれたという話を聞きました。
滝乃:そんなことが! 実践的な内容にしたいと思っていたので、嬉しいです。
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犬山:「『いのちをまもる図鑑』に、困ったら親に相談してって書いてあったから」と素直に受け止めてくれたみたいで。その後、その保護者が先生に話して対応が進んだそうです。
滝乃:そのお話を聞けただけで、本当に作ってよかったなと思います。
犬山:いじめの件に限らず、被害に遭ったときに「どうすればいいか」を具体的に教えるフローチャートや、公衆電話の使い方を載せるというのも素晴らしい工夫だと思います。
滝乃:ありがとうございます! 警察庁や専門家に取材して、子どもが実際に行動できるようにと思って入れた部分です。
「うんこはもれるものです」から始まる共感
犬山:学校でうんこを漏らしてしまった話が入っているのも最高です。低学年の子には「人生終わった」と思えるような深刻な出来事ですもんね。解説文の冒頭が「まず、うんこはもれるものです」なのもいいですね。「恥ずかしくないよ」と寄り添う姿勢がビシビシ伝わってきます。
滝乃:ありがとうございます。自分自身がもらしがちな子どもだったので、うんこのことは入れたいと思っていました。ギャグっぽくノリノリで書いてますが、実際にそういう経験があった子たちにとって、「恥ずかしいことじゃないんだ」と思えるような言葉にしたいなと。
犬山:「クールに教室を去る」という自分を責めすぎずに冷静に対処するというソリューションも秀逸です。
滝乃:慌てずに対処するというのは、すべてのピンチに共通するトラブル対応の基本ですね。防災と同じで知識があれば、いざというときの行動が変わってきますよね。
「好きな人に振られたとき」の心の持ち方
犬山:「好きな人に振られた」ときの対処法が入っているのは意外でしたが、たしかに必要な内容ですよね。子どもだけでなく大人でも、振られたあとの心の持っていき方がわからない人が多いですから。変に執着してしまうとストーカーのような行動になりかねないですし、そこを軽やかに諭しているのが素晴らしいと思いました。
滝乃:ありがとうございます。思春期の子に向けては「相手の気持ちになって考える」ような内容を多めに入れています。
犬山:さらにこの本の良いところは、男女問わず読めるようになっていることですね。児童書や漫画だと、男の子向けのものは女の子も読むけど、女の子向けのものは男の子が手に取らないことが多いですよね。
滝乃:そうなんです。この本は、危険生物の話から始まるので、男の子にも楽しんでもらえる構成になっていると思います。
犬山:そのうえで内容的には男女どちらにも響くテーマで、「被害者にも加害者にもならないために」というメッセージが込められているのが素晴らしいです。
滝乃:そうですね。もちろん女の子でもストーカー化する人もいますし、加害者になることもあるので、イラストは男女両方のケースを描いていただいていますね。
※本稿は、『いのちをまもる図鑑』と『女の子が生まれたこと、後悔してほしくないから』についての書き下ろし対談記事です。