【老後】いらない土地を放棄する「意外な方法」とは?
総務省の調査によれば、老後1か月の生活費は、60代の世帯で約30万円、70代以上の世帯で約25万円かかると言われている。仮に90歳まで生きるとすれば、60歳からの30年間で9600万円が必要になる(30万円×12×10+25万円×12×20)。病気や介護といった問題も無視できない。
本連載は、終活や相続に関するノウハウを紹介し、「お金の不安」を解消するものだ。著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超えている。この度、5000人の声を集めたエンディングノート、『ぶっちゃけ相続 お金の不安が消えるエンディングノート』を出版する。銀行口座、保険、年金、介護、不動産、NISA、葬儀といった観点から、終活と相続のリアルをあますところなく伝えている。お金の不安を解消するためのポイントを聞いた。
知らないと絶対損する「お金の話」
本日は「終活と不動産」についてお話しします。年末年始、家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。
2024年4月1日から施行された民法改正によって、不動産を相続した人は、不動産を取得することを知った日から3年以内に相続登記、つまり、不動産の名義変更をしなければいけません。
正当な理由なく名義変更をしなかった場合には、10万円以下の過料が科せられます。相続登記の義務化は、2024年4月1日以降に亡くなった方だけでなく、それ以前に亡くなっている方も対象です。
例えば、今から20年以上前に亡くなっている祖父名義のままの土地があった場合、これまでは名義変更をしなくても罰則はありませんでしたが、2024年4月1日から3年(つまり2027年3月31日)を経過すると、ペナルティの対象にされる恐れがあります。
名義変更の問題とは別に、不要な不動産は生前中に整理しておきたいところです。バブル期に原野商法で地方の土地を買わされてしまった方や、先祖代々相続してきた山林などをお持ちの方は、「売りたいけど、誰も買ってくれない」と半ば諦めていることが多いのが現状です。
しかし、このような不動産を遺してしまうと、相続した家族がトラブルに巻き込まれてしまう恐れがあります。
「放置した山林」をめぐるトラブル
2017年、熊本県で走行中の車に倒れた木が直撃し、運転手が死亡するという痛ましい事故が起こりました。遺族は熊本市と土地の所有者3人に損害賠償を求める訴訟を提起し、2022年12月、所有者と熊本市に対して約5000万円の賠償を命じる高裁判決が確定しました。
その後、熊本市は、「事故の3年前から倒木の可能性があるとして管理を求めたのに、所有者が対応しなかったことが事故の原因」として、土地の所有者に、熊本市が負担した賠償金の全額を支払うよう提訴しています。この所有者は、前所有者から相続した山林を、3人の相続人で共有していたそうです。
これまでの法律では、必要な財産だけを相続し、不要な財産だけを相続放棄することはできませんでした。しかし、2023年4月より、不要な土地だけを特別に相続放棄することができる、相続土地国庫帰属法が始まりました。この制度を使えば、不要な土地だけを相続放棄することが可能です。
ただ、国庫に帰属させるには、さまざまな条件があるため、簡単にはいきません。また、許可がおりても、最低20万円~多いと100万円以上の負担金を払わなければなりません。そのため、二束三文でも売却できるなら、売却したほうが得と言えます。まったく売却できる見込みがない場合は、この制度も視野に入れて、事前に専門家に相談してみましょう。
年末年始が近づいてきました。親族で顔を合わせる機会がある人も多いかと思います。相続や贈与のことで家族と話し合う際、ぜひ参考にしてください。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続 お金の不安が消えるエンディングノート』を一部抜粋・編集したものです)