マスク氏、欧州政界を揺らすPhoto:Jeff Bottari/gettyimages

 米富豪イーロン・マスク氏は、移民問題や言論の自由などを巡って欧州政治の主流派に爆弾発言を放っている。トランプ次期米政権の有力顧問となる同氏への対応に各国政府は苦慮している。

 マスク氏はこのところソーシャルメディアで、欧州政治に関する挑発的な発言を繰り返している。総選挙を控えるドイツの極右政党を支持し、英首相がレイプに加担しているとして非難。また、イタリアの判事を糾弾し、欧州連合(EU)執行機関の欧州委員会を痛烈に批判した。

 世界一の富豪による一連の投稿は外交における頭痛の種と化し、欧州の主流政党の一部は守勢に立たされている。ドナルド・トランプ氏の大統領就任式を間近に控え、マスク氏を公然と批判すればトランプ氏との関係が悪化し、マスク氏の攻撃が激化しかねないとの懸念から、多くの欧州首脳は慎重な姿勢を示している。

 だが、マスク氏が自身のソーシャルメディア「X」のフォロワー2億1100万人に向けた一連の投稿は、今やこうした国々でニュースに取り上げられており、無視できなくなっている。経済成長停滞で主流派による政治への信頼が低下し、政治が不安定化する中、支持率が低迷する欧州首脳らはマスク氏がXを使って不満を抱く有権者を動かしかねないと危惧している。

 エマニュエル・マクロン仏大統領は6日、大使らを前に「世界有数のソーシャルメディア企業のオーナーが、世界的な新たな反動主義を支持し、ドイツなどの選挙に直接介入すると10年前に聞かされていたら、誰もそんなことが起きるとは想像しなかっただろう」と語った。

 マスク氏の手荒な外交姿勢は、トランプ次期米政権に同盟国はどう対応すべきかという課題を浮き彫りにする。各国政府は第1次トランプ政権時、トランプ氏が深夜にソーシャルメディアで発信する予測不能な発言に対処しなければならなかった。これからはマスク氏の発言にも目を配る必要がある。

 キア・スターマー英首相は6日、ひっ迫する医療制度に焦点を当てる予定だった記者会見で、マスク氏の投稿への反論に多くの時間を割いた。マスク氏は、スターマー氏が10年以上前に検察局トップを務めていた際の児童性的虐待事件への対応を巡り投稿していた。スターマー氏は「イーロン・マスク氏や他の誰かに限定しない」とした上で、「うそや誤情報を可能な限り拡散している人々」を非難した。