「これ、ヤバい」逆境のスターピアニストが惚れ込む“唯一無二”のスポーツカーとは【試乗記】この日は大阪府内で撮影。撮影中もZに見入る人何人かがスマホで撮影をしていた

目の覚めるような青色で
滑り込んできた“淑女”とは

 世の中には誰かの憧れや期待を背負うこと――それを運命づけられた人がいる。人智の結晶である工業技術が生み出したクルマもまたしかりだ。

 神奈川県横浜市・みなとみらい。日産自動車グローバル本社近くの路上に、すっと滑りこむように透き通るような青色が映えるフェアレディZがやってきた。

 セイランブルーと呼ばれる目の覚めるような青色の塗装は、否が応にも道行く人たちの目を釘付けにする。その様は、まるで舞台上で観客からの視線をひとり占めする、青いドレスを身にまとった女性ピアニストを思い起こさせる。

 もっともこのZは、淑女を意味する「フェアレディ」という名を与えられているにもかかわらず、やはりスポーツカー。その実は激しい気性を持っていることはクルマ好きならずとも察しのつくところだ。

 事実、このZを試乗した作曲家・松尾賢志郎は、「このクルマはスポーツカー以外の何物でもない」と言い、ローマ賞、青山賞といった世界的にも権威ある音楽賞歴を誇る作曲家・酒井健治も「実に男性的な車」と評す。

 優雅だけど荒々しい。――1969年に最初のモデルが世に出て以来、フェアレディZというクルマの本質はおよそこんなところだろう。

 今回、そんな気難しくも激しい淑女をエスコートするかのごとく、慣れたハンドルさばきでZを操っているのは、ピアニストの大倉卓也(30)だ。

「映えますね。まさにZにぴったりといった方ですね。Zは日産というか、日本車の中でも特別な存在です。そのZが選んだ人というか。絵になります」

 今回、共にこの大倉とZを取材した女性記者のひとりは、Zの運転席から大倉が出てきたとき、誰に言うとなくこう声をあげた。

 確かに長身のイケメン、茶色のブルゾンとジーンズというキレイめとワイルドとも言えるコーディネイトがよく似合う。ドアの開け閉めひとつとっても品の良さが滲み出ている。スターのオーラが漂っている。こう声をあげる女性がいても不思議ではない。

 乗る人を選ぶ車――その様子はまさに、Zという車が大倉という乗り手を選んだかのように見えた。