音楽と車は同じ――。
若き音の匠が語る「モノづくり」の神髄
音楽、中でも作曲という行為は、車を作ることと通じるものがある――。作曲家・酒井健治はこう語った。
音楽、とりわけクラシック音楽の世界で「3大コンクール」と呼ばれるものがある。言わずと知れたショパン、チャイコフスキー、エリザベートの各コンクールだ。このうちのひとつ“エリコン”の略称で知られる「エリザベート王妃国際音楽コンクール」に作曲部門でグランプリに輝いたのが、この酒井である。
その酒井がエリコンでグランプリに輝いた2012年には、文化庁長官表彰(国際芸術部門)を、その翌年2013年には芥川作曲賞を、そして2015年にはローマ賞をそれぞれ受賞した。近年では2022年の青山賞の受賞でもその名を目にしている。世界的にも権威ある賞歴多数あり――。
これら数多の賞歴は、たとえ音楽に何ら関心を持っていない向きであったとしても、酒井が世界的な作曲家であることが十分わかるものだろう。
その酒井は、普段、ドイツの名車、ポルシェを駆るという。きっと車好きに違いない。そこで今回日産自動車のフラッグシップモデルである『フェアレディZ』の試乗インタビューを依頼した。そして、返ってきたのが次の言葉である。
「車の機構と音楽を作る過程が似ていると感じる瞬間もあり、特に車のエンジンの専門家でもありませんが、メカニックなものに対する偏愛のようなものを持ち合わせております」
音楽とは、「音の構造物である」と語る酒井に、音ではなく機械の構造物とも言える『Z』はどう映るのか。音楽と車、その違いはあれど“作り手”として何を感じたのか。
若き音の匠の声を余すことなく伝えていく。それはきっと市井に生きる私たちが生きるうえで何かのヒントになるはずだ。
今春のある日、大阪府内。この日天気は快晴。絶好のドライブ日和だった。待ち合わせ場所に行くと、そこには酒井と酒井によって「ポルしろー」と名付けられたポルシェ911カレラがいた。
今回、酒井が試乗する『Z』は、1969年に登場した初代から数えて7代目となる「RZ34」である。いわゆる最新型の『Z』だ。その需要に生産規模が追いつかず納期が延び、今現在(本稿執筆時点)ですら顧客からのオーダーストップがかかったまま、いまだ受注再開の目途が立っていない。それ故に、ファンの間では歴代の『Z』以上に前評判が高まっている流通数の少ないモデルだ。