米インテルがAI向け半導体用の世界初のシステム・ファウンドリーを発表し、台湾TSMCは熊本で新しい工場を立ち上げた。技術競争から地政学への対応まで、世界の半導体製造大手2社は競争と協力の新たな時代を迎えている。AIブームの到来で、2社の競争はそれぞれの会社の将来に影響を与えるだけでなく、世界の半導体産業の発展をも左右するだろう。特集『TSMCvsインテル AI半導体決戦』(全6回)の#1では、2月に開催された半導体二大イベントの現地取材で見えた、半導体製造を巡る大手2社の戦略に迫る。(台湾「財訊」林宏達、翻訳・再編集/ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
マイクロソフト、オープンAI、アーム…
豪華ゲストがインテル支持を表明
「先日は私がインテルのCEOに就任して3周年の記念日だった」
2月22日、米半導体大手インテルがカリフォルニア州サンノゼ市のコンベンションセンターで開催した、同社初となる半導体受託製造(ファウンドリー)事業のカンファレンス。パット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)は講演で冒頭のように述べ、こう振り返った。
「2021年にインテルに復帰した私は、間もなく実施した自社イベント『Intel Unleashed』で、欧州と米国で半導体の主要なファウンドリーになることを目指す、と掲げた。しかし、『成功は無理だろう』『インテルは業界リーダーには戻れないだろう』と疑問視する人々もいた」
そして、ゲルシンガー氏はジョークを交えながらこう続けた。
「説得の難しい悲観論者がいる。私は“永遠のクマ”と呼んでいる。永遠に冬眠しているからだ(編注:ベア相場〈下げ相場・弱気相場〉のクマと掛けている)。しかしわれわれは3年で、ついにここまで来た。ビジョンは現実になった。それではAI時代を見据えた世界初のシステム・ファウンドリー事業であるインテル・ファウンドリーを紹介しよう」
ゲルシンガー氏は22日のカンファレンスの講演で、欧州と米国で先端プロセスの半導体製造を担うことを宣言した。AI用半導体の製造という、巨大市場の奪い合いに打って出るのだ。
この日はインテルにとって極めて重要な1日だ。インテルは13年、収益源であるPC(パソコン)のエコシステムから飛び出し、ファウンドリー市場への参入を決めた。しかし、台湾TSMCのような、パートナー企業が協力できるエコシステムを確立することができなかった。
TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏の言葉を借りれば、インテルは「ダンスフロアで一人で踊る」ことに慣れている。インテルは半導体の設計から製造まで一貫して手掛けるIDM(垂直統合)ビジネスで成功を収めてきた。インテルは何でも自社でやることに慣れてしまったのだ。
しかし、ゲルシンガー氏の変革で、一部のパートナーがインテルのダンスフロアに現れ始めた。この日のカンファレンスには米マイクロソフトのサティア・ナデラCEO、オープンAI創業者のサム・アルトマンCEO、英アームのレネ・ハースCEOらが登場し、インテルへの支持を表明した。