この連載は、ロングセラー『コンセプトの教科書』の著者で、株式会社TBWA\HAKUHODOチーフ・クリエイティブ・オフィサーの細田高広氏によるものです。本書の読者からは「教科書の名にふさわしい本!」「センスがなくてもコンセプトを作れることに感動した」「何度も読み返したい名著」など、喜びの声が多数寄せられています。
細田氏は、グローバル企業、注目のスタートアップ、ヒット商品、そして行列ができるお店をつくってきた世界的なクリエイティブ・ディレクター。新しいものをつくるとき、考えるとき、役立つヒントが必ず見つかるはずです。

会議で、三流は「ダメ出し」、二流は「ポジ出し」。では一流は?Photo: Adobe Stock

ダメ出しだけでは何も生みだせない。

 最も生産性のない会議とは、どのようなものでしょう。
 それは「ダメ出し」ばかりが横行する会議です。他人のアイデアの欠点を指摘し、否定して終わる。こうした会議からはなにひとつ、新しいものは生まれません。

 では、いいところを見つける「ポジ出し」はどうでしょう。確かに相手の案のいいところを見つければ、チームのモチベーションを高めることができます。「もっとこうした方が良いのでは?」と改善点を提示できれば議論は前進するでしょう。近年、パワハラを恐れる上司はこうした前向きなフィードバックを心がけています。ところが、ここに落とし穴があるのです。

よい発想は良い「対立」から生まれる。

 本質的に新しい課題解決につながる発想は「よい対立」を乗り越えた先に生まれてくるものです。対立を避ければ場は和みますが、既存の枠組みの延長にある議論から抜け出すことが難しくなります。革新的な発想にたどり着くわけがありません。

 どの領域でもプロフェッショナルは健全な「対立」を好みます。あえて反対の立場をとったり、肯定したり、意図的に対立を生み出し、両極端の発想を乗り越えようとします。その過程で価値あるアイデアが見つかることを知っているからです。対立は問題ではなく、むしろチャンスなのです。

「OR」を「AND」にする方法を考え抜くことができますか?

「環境性能か、走行性能か」という対立概念をEVのスポーツカー化によって乗り越えたテスラ
「個人資産か、公共性か」という対立概念を乗り越えたAirbnbUberのようなシェアリングサービス。
 通常の人が「OR」で考えるものを、優れた起業家は「AND」にするアイデアを考えることで革新的な商品やサービスを生み出してきました。

 身近な例では「スタイル」と「履きやすさ」の対立を乗り越えた、GUの「マシュマロ・パンプス」や、「子どもの興味」と「学習ドリル」というジャンルの対立を乗り越えた「うんこドリル」も、対立を乗り越えるための創造性が発揮されています。

 一方的なダメ出しやポジ出しは、結果的に対話から逃げることになりかねません。一流の人は「良い対立」をつくりだし、創造的な対話へと導くのです。

(本記事は、『コンセプトの教科書』の著者・細田高広氏が特別に書き下ろしたものです。)