何かを提案をした時、こんな言葉を言われたことはないだろうか?
「なんか、普通だね」
「他の商品・サービスと何が違うの?」
「この会社でやる意味ある?」

などなど。サービスや商品、仕組みなど、新しい何かをつくろうとするとき、誰もが一度は投げかけられる言葉だろう。
そんな悩めるビジネスパーソンにおすすめなのが、細田高広氏の著作『コンセプトの教科書』。この連載では、グローバル企業、注目のスタートアップ、ヒット商品、そして行列ができるお店をつくってきた世界的クリエイティブ・ディレクターの細田氏が、コンセプトメイキングの発想法や表現法などを解説する。新しいものをつくるとき、役立つヒントが必ず見つかるはずだ。

似た内容なのに「通る企画、通らない企画」。4つの決定的な違いとはPhoto: Adobe Stock

アイデアとコンセプトの違い。

 企画の内容が全く異なるならまだしも、似たような企画なのに、なぜ、通せる人と通せない人がいるのか。皆さんも理不尽に感じた経験はないでしょうか。正直に言えば、私もかつては、そのひとりでした。今になれば原因は分かります。「アイデア」と「コンセプト」の違いが分かっていなかったのです。

 アイデアが「思いつき」や「着想」を意味する一方、コンセプトは「設計図」を意味します。設計図ですから、仕上がりが想像できる状態になっていなくてはいけません。企画が通せない人は思いつきを語るに止まり、企画を通せる人は、コンセプトを通じて、その先のイメージを伝えられているのです。

 では、どのような条件を満たせば、思わず承認せずにはいられない「良いコンセプト」になるのでしょうか? この短い文章を読むことで、4つの条件だけでも是非、持ち帰ってください。

①「相手目線」でできているか?

 スターバックスの立役者であるハワード・シュルツは、かつて「イタリアのカフェ文化をアメリカに持ち込みたい」と考えました。これが着想を言語化したアイデアの段階です。次に、彼はイタリアのカフェ文化がアメリカの生活者に与える意味は何か? と問いかけました。考えた末にたどり着いたのが、家と職場の間にあってくつろげる「第3の場所」(サード・プレイス)というコンセプトだったのです。思いつきが、誰かを幸せにする設計図に変換されたことが分かりますね。

②「ならでは」の発想はあるか?

 どんなに正しい企画やアイデアでも、他所の企業や組織でもできるように感じられたら意味がありません。自分たちならではの提案だ、と感じられるようにコンセプトをつくりましょう。

 無印良品に「その次があるバスタオル」という人気商品があります。タオルに切り込みラインが入っており、ハサミで切ってもほつれないようになっています。バスタオルとして使いきった後の「その次」があらかじめデザインされているのです。考え方も商品設計も実に無印良品らしいと感じられませんか? 同じことを言葉にしても、なぜか「切り込みライン付きバスタオル」や「リユーザブル・バスタオル」では、らしくありませんよね。

 その答えは、無印良品の企業理念にある「感じ良い暮らしと社会」という言葉にあります。「切り込みライン」という説明にも、「リユーザブル」というカッコつけた言い回しにもない感じの良さが「その次がある」という言葉にはあるでしょう。こうした「らしさ」を見つけることは、コンセプトメイキングには欠かせません。

③「スケール」を見込めるか?

 ビジネスにおける企画は、ある程度の市場規模が見えなければ、成立しません。アイデアを考えるときは面白さや新しさを優先したとしても、コンセプトにまとめるときには、その規模を考えるべきでしょう。

 ここで大切なのは「誰のためにつくるのか?」を改めて考えることです。誰のためかが明確になれば規模が調べられるようになります。十分なスケールが見込めるかどうか、検証できるようになるのです。

④「シンプル」な言葉になっているか?

 最後はシンプルな言葉にできているかどうか、です。同じことを言うのであれば、少ない文字数で端的に伝える方が印象に残ります。例えばコンセプトの研修で20代向けの香水を考えていたとき、ある受講生が「ビジネスの身だしなみのひとつとして、清潔な印象を周囲に伝える香り」という提案をしました。説得力のある市場分析や競合分析があり、提案の筋としてはとてもよく理解できるものがありました。

 しかし、言葉としては長くて覚えられません。そこで無駄な言葉を削ぎ落として必要最小限の言葉で書き直せるようやりとりを重ねました。結果できたのが「香りをビジネスウェアに」というコンセプトです。ビジネスの装いがカジュアルになる時代、ネクタイなどの見えるアイテムに代わって、見えない香りが第一印象を決めるフォーマルウェアになれるのだ、という考え方が明確に伝わりますね。

 以上、「相手目線」「ならでは」「スケール」「シンプル」という4つの視点からアイデアを、コンセプトに仕上げてみましょう。

 このほかにも、『コンセプトの教科書』では、発想法から表現法まで、コンセプトづくりを超具体的に解説しています。