2008年1月17日のバーナンキFRB議長の議会証言で、民主党のKaptur議員(オハイオ)が、バーナンキをゴールドマン・サックスの元CEOと勘違いした発言が米メディアで話題になっていた。
議会証言のウェブ中継ビデオを見てみると、同議員は、(1)サブプライム問題につながる証券化の動きは、どの金融機関や、どの規制当局に最も責任があるのか?、(2)財政刺激策を議会で議論するためには、巨額の報酬を得ていた金融機関幹部は、サラリーやボーナスを米国民に払い戻す必要があるのではないか?とバーナンキに質問したあとに、「あなたはゴールドマン・サックスのCEOでしたが……」と話し始めた。
バーナンキが「あなたは財務長官と混同しています」と言うと、聴衆がざわめいた。「会社を間違った? ポールソン? あなたはどの会社にいたの?」と議員が問い直すと、バーナンキは「私は、プリンストン大学経済学部のCEOでした」とジョークを飛ばした。
議会は爆笑に包まれた。議員は「プリンストン! ソーリー、別の人と間違ったわ。議事録から削除してください」と笑いながら答えていた。攻撃的にたたみかけるような口調のこの迫力ある女性議員を柔和にしたバーナンキのジョークのセンスはなかなか優れている。
ところで、同議員が指摘した「財政刺激策を実行するに当たって、ウォールストリート幹部は私財を提供しなくてよいのか?」という論点は、米国の非都市部において根強くある問題意識と推測される。そう考えると、2008年1月18日にブッシュ政権が発表した最大1500億ドルの景気対策は、現時点ではかなり踏み込んだものだったのではないかと思われる。
バーナンキは以前、日本の経済危機への処方箋として、ヘリコプターから紙幣をばらまくことを提唱していた。現実にばらまくのではなく、意味するところは、減税と金融緩和策のポリシーミックスだった。FRBは1月22日に0.75%の緊急利下げを決定した。バーナンキはブッシュ政権の減税策を強く支持している。「ヘリコプターマネー」である。
減税策が早期に実行されれば、一時的には消費を下支えする効果を持つだろう。しかし、米経済が1990年代日本のようなバランスシート型不況に突入してしまうと、その効果は限られる。ハーバード大学のロゴフ教授とメリーランド大学のラインハルト教授はバランスシート型不況の恐れを警告している(2008年1月21日付「ウォールストリート・ジャーナル」)。“ヘリコプター・ベン”にとっては悩ましい状況が続きそうである。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)