やってもやっても仕事が終わらない、前に進まない――。そんな状況に共感するビジネスパーソンは多いはずだ。事実、コロナ禍以降、私たちは一層仕事に圧迫されている。次々に押し寄せるオンライン会議やメール・チャットの返信、その隙間時間に日々のToDo処理をするのが精いっぱいで、「本当に大切なこと」に時間を割けない。そんな状況を変える一冊として全米で話題を呼び、多くの著名メディアでベストセラー、2024年年間ベストを受賞したのが『SLOW 仕事の減らし方』だ。これからの時代に求められる「知的労働者の働き方」の新基準とは? 今回は、本書の邦訳版の刊行を記念して、その一部を抜粋して紹介する。
仕事を増やせば増やすほど、アウトプットは減る
たとえばあなたがコンサルで、顧客のために分析レポートを書くのが仕事だとする。ひとつのレポートを完成させるには7時間のコア作業が必要で、またその時点で抱えているレポート1件につき、毎日1時間分の間接コスト(メール、ミーティング、そこに振り向けられる脳のリソースなど)が発生すると仮定しよう。
一度にひとつのレポートだけにコミットし、それが完成するまでほかの案件をいっさい引き受けなければ、1日につき1件のレポートを書き上げられる(8時間労働として計算)。一方、4つのレポートを同時並行で引き受けた場合、4つのタスクを合わせた間接コストは1日につき4時間だ。つまり1日の半分を実作業ではない管理作業に費やすことになり、レポート1件を完成させるまでの時間は実質的に2倍になる。
引き受ける仕事を減らしたほうが、アウトプットは明らかに増えるのだ。
仕事がないほど、脳が冴えわたる
本来の仕事に使える時間が増えるだけではない。やるべきことを減らせば、仕事をする時間の「質」も高まる。
あちこち燃え上がりそうな火を慌ただしく抑えながら働くとき、人の脳は自由に動けなくなる。視野が狭まり、発想の柔軟性が失われる。
一方、ひとつの作業に集中して取り組めば、断片的な注意力では思いつかなかったような冴えたプログラムや大胆な戦略を思いつきやすい。
これには生理学的・神経学的な理由があり、時間に追われて作業するときのコルチゾールの悪影響あるいは脳神経細胞間の豊かな意味的結合を育むのに要する時間といった側面から説明することは可能だけれど、退屈なので詳細は割愛する。科学に頼らなくても、自分の経験を振り返ればわかるはずだ。
急いでいないときのほうが、脳はうまく機能する。
(本稿は、『SLOW 仕事の減らし方~「本当に大切なこと」に頭を使うための3つのヒント』(カル・ニューポート著、高橋璃子訳)の内容を一部抜粋・編集したものです)