前途有望なテクノロジーの評価は昔から、イエスかノーかの質問で行われることが多い。きちんと動くか、動かないかといった問いから答えを出そうとする。
導入して期待通り成果が出ているか。そのテクノロジーを土台にした製品やサービスは、収益予想を達成しているか、いないか。
こうした問いは全て、至極妥当なものだ。ただし今の基礎的なテクノロジーの多くには遅かれ早かれ、明確に「ノー」という答えが出る。
印刷機、電化、電話が及ぼした変革のインパクトは、登場したばかりの頃に明らかだったとは言い難い。例えばウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がのちに報道したように、1980年代には米通信大手AT&Tが携帯電話技術を主に地方のビジネスと判断し、事業として追求しない決定を下した(同社は結局、方針を転換し、1993年に携帯電話事業を買収した)。ゼロックス・パロアルト研究所(PARC)は1970年代にグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を開発したが、その商業化をリードしたのはスティーブ・ジョブズ氏などの部外者だったことはよく知られている。
今、世界はすっかり新たな時代に入り、人工知能(AI)や電気自動車(EV)、自動運転車、ロボット、ビットコイン、核融合、量子コンピューティングの未来を誰もが言い当てようとしている。
幸いなことに、テクノロジーの進化をある程度予想することは可能だが、そのためにはまず正しい問いを投げかける必要がある。
2019年、ベンチャーキャピタリストのビノッド・コースラ氏は、米AI新興企業のオープンAIに5000万ドル(約78億円)を投資した。これはコースラ氏がそれまでに行った最も大きな初期投資の2倍の金額だ。翌年、オープンAIが公開した生成AIモデル「GPT-3」は、2022年に公開された対話型アプリ「チャットGPT」の基礎となった。しかもコースラ氏は投資プロセスを始めた2018年の時点では、バーチャルアシスタントのようなAIをベースとした製品の性能は人間と比べれば取るに足りない、もっと言えばばかばかしいものかもしれないと思っていた。