三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第158回は、子どもの遊興費に対する親の関わり方を論じる。
子どもの金銭感覚がバグったら困る
貯蓄下手という悩みを抱える専業主婦の斎藤は、息子から海外留学に行きたいという希望を打ち明けられ、慌てふためく。家計の現状からは留学資金をねん出するのは不可能に思えるが、「お金がないから留学は諦めてとは言えない」と悩む。
お金のことは気にせず、子どもの希望や夢を叶えてやりたい。親なら誰しもそう思うものだろうし、私も3人の娘の父としてその思いは理解できる。
しかし、現実は甘くない。このコラムで何度か書いたように、私の口癖は「国公立でお願いします!」だ。我が家の財政事情では、残念ながら三姉妹全員に「好きな道を選べ」とは言えない。
もっとも、私は「予算制約なしで何でもできる」が理想だとは思わない。超富裕層なら一生そんなモードで過ごせるのかもしれないが、娘たちはいずれ自分の稼ぎの範囲内で人生をやりくりしなければならない。金銭感覚をバグらせないためにも、常識的なコスト感覚は身につけておいた方がいい。
とはいえ、お金がネックになって今しかできないことをやれないのは、もったいない。そこには「お金と時間の価値のバランスの変化」というファクターも絡む。
通常、学生時代は時間に余裕があって、お金がない。社会人になれば、たとえお金に余裕ができても時間は限られる。私自身、学生時代はそれなりにバイトに時間を割いたのだが、社会人になってから「今あるお金であの頃の時間を買いたい」と切実に思ったものだ。
「遊ぶ金は自分で何とかしてください」
自身の経験の反省から、私が娘たちに提供しているのが「旅費出世払いローン」だ。我が家は「『遊ぶ金』は自分で何とかしてください」が基本方針。学費や書籍代、教材費、画材や模型の製作費などは申請があれば支給している。
長女と次女は自宅から大学に通っているので生活費の自己負担は最小限。まとまったお金が必要になるのは友だちとの旅行くらいなので、その旅費を「就職後に返済する」という条件で融資している。
旅行を特別扱いにしているのは、「可愛い子には旅をさせよ」という言葉の通り、旅は人を成長させるからだ。若いうちにしかできない旅もある。融資の形にすれば、背中を押しつつ、返済を考えてコストにも意識が向かう。悪くないバランスの仕組みだと思うし、実際、ユーザーからは好評をいただいている。
「遊ぶ金」すべてを出世払いの融資対象としないのは、アルバイトも大事な経験だと思うからだ。自分で働いてみないと、お金を稼ぐ大変さはなかなか実感できない。
現代の日本では、ほとんどの子どもが最初は消費者として社会に関わる。バイト禁止の高校が多いから、大学生になったら早めに「労働者デビュー」を済ませた方がいい。
私自身は小学生の頃から家業の肉体労働(看板屋)に駆り出され、少額ながら親からバイト代をもらっていた。小遣いと自分で稼いだ金では、使うときの気分が全然違ったものだった。
将来の収入をあてにして現在のお金を手に入れる借金は、タイムマシンに似ている。我が家の例なら、お金を貸しているのは見かけ上は私だが、実態としての「貸し手」は未来の娘たち自身だ。稼ぐようになったら、容赦なく取り立てるつもりなので、くれぐれもご利用は計画的に、と念を押している。