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昨今、メディアやSNSでよく目にする「五月病」や「HSP」といったワード。なんとなくメンタルに関わる病名のように思えるが、それは果たして“病名”なのか。精神科医・田近亜蘭氏の『その医療情報は本当か』(集英社新書)の一部を抜粋・編集しお送りする。
五月病やHSPは
医学的な病名ではない
精神科での診察の際に患者さんから、「五月病かも。会社に行けないんです」「僕はHSPです。薬はありますか」「カサンドラ症候群という病気をネットで見つけました。わたしそれかも」「内科で自律神経失調症と診断されました。なんだか納得がいかずにつらい」といった悩みの声を聞くことがあります。
自分では病気だと思い込んでいても、実は別の病気のひとつの症状であることや、よく聞くことばでも医学的な病名ではない場合があります。
ここでは主に、精神科領域で「五月病」「HSP」「カサンドラ症候群」「自律神経失調症」といった質問が多い用語について、医療の現場での考えを述べます。
結論から言うと、五月病、HSP、カサンドラ症候群、自律神経失調症は、どれも病名ではありません。
まず、「五月病」とはよく知られるように、春の大型連休明けに、「学校や職場に行く意欲がわかない」「気分が落ち込む」「不安がつのる」「食欲がない」「体がとてもだるい」「なかなか眠れない」といったメンタルの不調の総称として用いられます。
1960年代後半に流行語となったとされ、そのころは、受験を終えた新入学の大学生や、クラス替えなどで環境が変わった小中高生、また新社会人に特有のことと考えられていました。
実際には、中高年の場合でも会社での異動や昇進、家族らの状況など環境の変化によって同様の症状がみられることから、近年では年代や職業を問わずに広く一般に使われます。
また、5月の連休明けから徐々に気力が低下し、6月になってより症状が強くなってつらい、という人が増えていることから、「六月病」と呼ばれることもあるようです。
ただ、ここで伝えておきたいのは、「五月病や六月病は俗称であり、医学的な病名ではない」ということです。
連休が明けると、メディアでは盛んに「五月病に注意」という情報が発信されていますが、あたかも病名であるかのような表現もみられます。
患者さんの中にも、五月病を病名だととらえている人が多いと感じています。
実は「5月の病気」ではない
五月病の症状の実態
学校や職場、家族、対人トラブルなど明確な原因と考えられるストレスがあり、それに起因して先述の症状のように無気力や気分の落ち込み、食欲不振、不眠などがあり、日常生活に支障がある場合、医学的には「適応障害」に該当します。その場合、原因がなくなれば症状は改善することが多いです。
また、明確な原因の有無にかかわらず、そうした症状が2週間以上にわたってほぼ一日中続く場合は、「うつ病」のケースもあります。