子供の近視症例が激増している。文部科学省の学校保健統計調査(2023年度)によると、裸眼視力1.0未満の児童・生徒は小学校で37.7%、中学校で60.9%と過去最多を更新した。
一番前の席でも板書が読みづらい「近視かつ裸眼視力0.3未満」は、小1男子4.6%、女子4.8%だが、学年が上がるにつれて増加し、中3では男子27.7%、女子38.6%にのぼった。
近視は、近くのものを見続けることで眼の表面の角膜から一番奥の網膜までの「眼軸」の長さが伸びた状態だ。網膜より手前でピントが合うので遠くが見づらい上に、成長期に眼軸長が伸び切ると元には戻らない。つまり、近視が軽~中等度の学童期のうちに進行を抑える必要がある。
世界に先んじて子供の近視対策に本腰を入れていたシンガポールでは、国の肝いりで近視の進行を抑制する「目薬」を開発。臨床試験で効果と安全性が確認され、世界各国で使用されている。
日本では昨年12月27日、参天製薬とシンガポール国立眼科・視覚研究所の共同開発による「アトロピン硫酸塩水和物(リジュセアミニ点眼液0.025%)」が近視の進行抑制を効能・効果として承認を取得した。
臨床試験結果をみると、就寝前の1日1回点眼で投与開始24ヵ月後の眼軸長の変化が有意に抑えられていた。また、副作用は「羞明(まぶしい、涙が出る)」などだった。
臨床試験の参加者は5~15歳の軽~中等度の近視の子供たちで、すでに近視が“完成”している成人は適応外だ。保険診療の対象外なので、処方を受ける際は自由診療になる点も注意が必要だ。
現代社会がスマホやタブレット端末抜きに成り立ち難い以上、子供の近視リスクは避けられない。
親世代ができることは、近視予防効果がある太陽光をたっぷり浴びられるように外遊びの時間をとること。そして端末を見る際は「対象物と眼の距離を30cm以上離し、30分に1度は休憩して、20秒以上遠くを見る」という「30‐30‐20ルール」を教えておこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)