脳が萎縮してしまう「NG習慣」について、東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授にジャーナリストの笹井恵里子さんが聞きました。瀧教授によると、脳が萎縮してしまった人でも脳機能を向上させることができるといいます。(東北大学加齢医学研究所教授 瀧 靖之、ジャーナリスト 笹井恵里子)
脳萎縮が進む習慣・ワースト3は
「社会的な孤立」
前回、社会的交流が活発な人は主観的幸福感(主観的な幸福感)が高い傾向にあり、若々しい脳を保てると述べました。主観的幸福感は、認知症や動脈硬化のリスクを下げることがわかっています。
反対に、社会的孤立は脳にとってマイナスです。「脳萎縮を進める習慣・ワースト3」を挙げるとするなら、ワースト3は社会的な孤立、つまりコミュニケーションを取る人がいない状態といえるでしょう。
しかし仮に脳が萎縮してしまった人でも、社会的な交流、誰かと話したりコミュニケーションを取ることで、脳機能は向上します。特に考えたり判断したりする上で欠かせない短期記憶をつかさどる「海馬」は、ストレスで萎縮してしまいますが、そのストレスを軽減することで「神経再生」(新たな神経細胞が生まれ変わること)が起きるといわれています。いくつになっても脳には可塑性(変化する力)があるからです。
ですから人と関わるのが一番。社会的交流が嫌いな人は、心がワクワクする新しい「趣味」を持つのがお勧めです。音楽鑑賞、外国語習得、手芸、将棋、書道などどんなものでも構いません。日常生活の中でできることからでもいいんですよ。カラオケで今まで歌ったことのない曲に挑戦する、初めての街を散策する、テレビで取り上げられた場所やお店に行ってみるなど。
知的好奇心のレベルが高い人ほど
側頭頭頂部の萎縮が少ない
これまでにやったことのないことをすると、脳のさまざまな領域が活性化します。音楽であれば、聴くだけでも脳の報酬系と呼ばれる領域が活発になり、褒められたときと同じような心地よい気持ちになります。さらに楽器を演奏したり、歌をうたえば、もっと広い領域が活性化します。ただ見る、ただ聴くよりも、何かの物事に積極的に関わる姿勢が大切。
見たい、聞きたい、知りたい、行きたい、やりたいなどいろいろなことに興味関心を持つ、いつもワクワクときめいている状態は脳にとてもいいのです。これを「知的好奇心」と言います。
私たちの研究グループでは約400人を8年間追い、8年後に脳がどのように変化するのかを調査しました。その結果、知的好奇心のレベルが高い人ほど本来は加齢とともに進む側頭頭頂部の萎縮が他の人々に比べて少なく保たれていたのです。側頭頭頂部は、高次認知機能を担う重要な領域です。