コンピューターはトレーダーの隠語を理解できるようになるかPhoto:Yuichiro Chino/gettyimages

 マイクロソフトやグーグルは、例えばスペイン語を英語に翻訳できるが、誰が金融業界独特の言葉を翻訳することができるのだろうか。

 コンプライアンス(法令順守)支援のソフトウエアを開発する新興企業の間では、トレーダーが用いる難解な言葉を解読するために人工知能(AI)を活用する動きが広がっている。米英の規制当局は金融犯罪に対する取り組みの一環として、トレーダーが使う隠語だらけの、さらには暗号のようなメッセージに目を向けるようになっている。

 金融業界における共謀は、金融のプロ同士が行う水面下のコミュニケーションが土台になっていることが多い。彼らは例えば、金利指標を操作したり、為替市場で取引価格のつり上げを示し合わせたりする。

 教養のある一般人でさえ、トレーダーの間で交わされる専門用語を理解するには業界内の人間による解説が必要になる。コンプライアンスソフト開発企業が競って企業顧客に提供しようとしているのは、不正なトレーダーらの上を行くようなAIツールだ。

 英ロンドンを拠点とするコンプライアンスソフト企業、ビヘイボックス(Behavox)は大手銀行やヘッジファンドなどを顧客とする。同社が販売するのは、金融機関の従業員が生み出す膨大な量のメッセージを取り込み、専門用語が飛び交う日常業務に埋もれた金融犯罪の兆候を探し出せるツールだ。

 ビヘイボックスのツールを使えば、コンプライアンス担当者はトレーダー2人が交わしたチャットを入力し、使われた隠語の意味や、違法行為を試みている可能性があるかどうかといったことを知ることができる。ビヘイボックスのテクニカルサービス責任者、クリス・バウアー氏は、同社のツールの基盤となる言語モデルは学生が学ぶとの似たような方法で訓練されたと語る。このモデルは規制当局のウェブサイトや証券当局への提出資料といった情報源を与えられ、汎用(はんよう)的なAIツールよりも深みがあるものになっているという。