「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

【昭和天皇の家庭教師の金言】二流の上司は「すぐに役立つ人材を育てよう」と考える。では、一流の上司はどうする?Photo: Adobe Stock

「すぐに役立つものは、すぐに役立たなくなる」

 昭和天皇の家庭教師を長らく務めた慶應義塾の小泉信三は、産業界からの「すぐに役立つ人材を育ててくれ」という慶應義塾への要請に対して「すぐに役立つものは、すぐに役立たなくなる」と反論してこの要請を退けました。

 小泉信三は、教育の目的が短期的に役立つスキルを教えることではなく、長期的に役立つ基礎力や思考力を養うことであるという考えでもって、産業界からの要請を退けたわけですが、これはまさに「教育のNPV(正味現在価値、ネット・プレゼント・バリュー)」に関する問題なのです。

 最近は「人的資本」についての議論がさまざまなところでされていますが、これも基本的には同じ考え方に基づいています。この「人的資本」という言葉はもともと、経済学者のゲーリー・ベッカーが唱えた概念ですが、彼は、社会におけるあらゆる種類の投資を比較したところ、最も長期的なリターンが大きいのは「人に対する投資」であることを明らかにして、この「人的資本」という概念を唱えました。

 昨今では金融投資への関心が日本でも高まっていますが、ベッカーの指摘を踏まえれば、私たちにとって最も長期的なリターンが大きいのは、株式でも債券でも不動産への投資でもなく、「自分への投資」なのだ、ということを忘れてはなりません。これは特に、学習のリターンが得られる期間が長くなる若い人にとって重要なことです。