「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

私がブログを書き始めた理由
先述した通り、私は30歳を境にコピーライター・クリエイターとしての自分の将来性に見切りをつけて電通を退社し、米国の戦略系コンサルティング会社に転職しました。
仕事はさすがに厳しく、連日、深夜まで働く日々が数年にわたって続きましたが、同時にやりがいもあり、また幸いにもウマの合う同僚にも恵まれ、30代の半ばの頃には「このままいけばパートナーになるのかなあ?」などとぼんやりと考えていました。
当然のことながら、当時は自分の時間資本の全てを目先のコンサルティングの仕事と、その仕事で成果を出すための短期的な勉強のために投入していました。
しかし、そんなある日、上司に当たるパートナーの人たちのあまりの多忙ぶりを見るにつけ、ふと考えてしまったのです。それは「なぜコンサルティング会社のパートナーは、職位が上がれば上がるほど、忙しそうなのか?」「そもそも自分は10年後にこうなりたいと思っているのか?」という問題です。
悶々と考えた結果は非常にシンプルでした。それは「自分の時間を他人に売るというコンサルティングのビジネスモデルの構造上、自分の価値が上がれば上がるほど、機会費用が大きくなるから」ということです。平たく言えば、偉くなると「何もやっていない時間=アイドルタイムのコストが高くなる」のです。
もとからマイペースな性格で、キャリアの最終ステージではゆっくりと思索と著述に携われればいいなあ、などと考えていた自分にとって、これは大きな気づきでした。このまま、目先の仕事に粉骨砕身して頑張ることは、身動きの取れない袋小路に自分を追い詰めることになる、と気づいてしまったのですから。
さて、ではどうすればいいのでしょうか? このとき、まさに自分をクライアントとして、ビジネスモデルのトランスフォーメーションを考えたわけです。
結論はすぐに出ました。「自分の時間を切り売りする」というビジネスモデルに依存する以上、市場価値が上昇すれば、同時に機会費用も増大する、という循環問題からは脱却できません。
この構造から抜けるためには「自分以外の何かに働いてもらう」しかありません。そこで私の場合、それを「自分の生み出したコンテンツ」にまずは設定し、40代からはコンサルティングのウェイトを半分に落として、著作やコンテンツ制作に関する領域のウェイトを重くすることを考えて、時間資本の資源配分を見直すことにしました。
具体的な内容を記せば、まずは論点を立ててテーマを設定し、書籍やレポートや人からのインプットを分析して文章にまとめ、それをブログや冊子として定期的に発信する、ということを始めたのです。
1週間に1回、必ずまとまった論考をブログとして上げる、ということを自分のノルマにして、それをずっと続けていたところ、5年ほど経ったタイミングでプロの編集者の方から「とても内容が面白いので本にしませんか?」と声をかけていただき、それが最初の本の出版につながったのです。
そして、この最初の出版が、次の出版、また次の出版へと数珠のようにつながり、やがて、それまで行っていた営利企業向けのコンサルティング以外の仕事、例えば文化施設や自治体のアドバイザー、公的機関における講演、ラジオ番組のパーソナリティ、果ては世界経済フォーラムのような国外の機関の研究メンバーなどの仕事へとつながり、仕事のポートフォリオも収入のポートフォリオも大きく変わったのです。
私のポートフォリオの転換に関して言えば、確かに「運が良かった」ということはあるかもしれません。しかし、自分から不確実性の中に身を投げ出していかなければ「運を人生に取り込む」ことすらできません。
本書で何度も指摘していることですが、現在のように不確実性の高い時代においては、不確実性をむしろポジティブに取り込むことが重要になってきます。イニシアチブ・ポートフォリオの考え方は、まさにこの「不確実性をポジティブに人生に取り込む」ためのフレームワークなのだということができるでしょう。