米インフレ率、3%に低下でも不十分な理由Photo:Bloomberg/gettyimages

 米国のインフレ率(消費者物価指数=CPI)は2024年12月に前年比2.9%となり、22年6月に付けたピークの9%から大幅に改善した。米連邦準備制度理事会(FRB)が好む指標の個人消費支出(PCE)価格指数では、24年12月のインフレ率は2.6%だった。これはFRBが目標とする2%から大きく離れておらず、22年の7.2%を大幅に下回る水準だ。

 それでは、米国人のはらわたを煮えくり返らせ、ドナルド・トランプ大統領の政権復帰を後押しした物価高騰への怒りはもう収まったのだろうか。

 そうは考えないほうがいい。

 2%と3%の差は大きくないように思われるかもしれない。しかし、かなり重要な場合がある。インフレがどれほどの害を及ぼすかは、大衆の心理を刺激するからだ。「ステッカーショック(消費者が商品の価格表示を見て高いことに驚いたり、ショックを受けたりすること)」に悩まされる人々は大幅な賃上げを要求する可能性が高く、それが雇用主をさらなる値上げへと駆り立てる。買い物客はモノが高くなる前の購入を急ぎ、それが物価を一段と押し上げる。

 この論理は、インフレが人々の行動に影響を及ぼさない場合に物価安定が達成されるという、アラン・グリーンスパン元FRB議長の直感を裏付けている。

 インフレが年率4%を超えるとインフレへの不安が急激に高まることが、多くの研究から明らかになっていると、バイデン前政権下で財務省当局者だったタラ・シンクレア氏は語った。インフレ率低下の途中で、FRBは恐らく、人々の怒りを静めるためにインフレ率を2%に確実に戻すことが必要であり、FRBがこの目標の達成を使命としている状況ではなおさらだと、シンクレア氏は指摘した。

 シンクレア氏は「インフレ率が高い水準から下がっていく過程で、3%は2%と同じかと言うと、そうでないことはかなり明確だ。FRBの信頼性という点から見ると、着地点にはこだわる必要があるだろう」と話した。