
国民民主党の「103万円の壁」解消のための、基礎控除拡大による課税最低限引き上げは低所得者よりも中高所得者の税負担軽減額が大きい。手取りを増やし経済を活性化することを目指すなら低所得者に恩恵が厚い社会保険の税方式化こそが望ましい。また、課税最低限の引き上げにあたっても低所得者のみが税軽減を受けることができる方策を取るべきである。(アジア成長研究所理事長 八田達夫)
同額の手取り増加なら低所得者の方が
中高所得者より消費増効果大きい
国民民主党は、「手取りを増やす」政策を掲げて、2024年10月の衆院選で大きく議席を伸ばした。消費が停滞している現時点において、手取り額の増大がもたらす消費の成長による経済の活性化は、重要である。消費が成長しなければ、投資も本格的に伸びないからだ。
経済を活性化させるためには、低所得者への所得移転割合が大きいほど、効果が大きいことに注目すべきである。消費性向が下がったために減税の乗数効果は下がったと言われるようになって久しい。
確かに、高所得者はその多くを貯蓄してしまう。しかし下の図表1が示すように、低所得者は手取り増大の大部分を消費する。このため、低所得者の手取り額の増大策は、中高所得者への同額の増税によって賄っても、経済を活性化させる。
資源の稼働率が低い状況では、例えば、収入の高い第10十分位の人から、収入の低い第1十分位の人に1万円所得移転をさせると、8.6万円(=11.1-2.5)のGDP(国内総生産)増大効果があることを図表1の最終行が示している。
この所得移転による低所得者の手取り増加は、所得移転の財源を負担する中高所得者の手取り額まで、経済活性化を通じて増やす力がある。
では、国民民主党の手取り増大案は低所得者によりメリットをもたらすものなのだろうか。次ページでは同党の案を検証するとともに、より望ましい方策を提示する。