社会保障審議会年金部会は、第3号被保険者制度の廃止を年金法改正案に盛り込まないことを決定した。サラリーマンの配偶者が保険料の負担なくして基礎年金を受けとることができるこの制度は、不公平で、かつ就業抑制の原因となり、廃止すべきである。しかし、廃止どころか制度を存続させることによるツケを企業に負わせることが検討されている。(昭和女子大学特命教授 八代尚宏)
保険料の支払いなしに基礎年金に
加入できる第3号被保険者
12月10日に開催された社会保障審議会年金部会は、来年度の通常国会に提出される年金法改正案内に、懸案の第3号被保険者制度(いわゆる主婦年金)の廃止を盛り込まないことを決定した。
これは国民年金の被保険者の区分で、自営業者と家族従業者が第1号、被用者(サラリーマン、公務員含む)が第2号の被保険者に対して、その一定以下の所得の配偶者が第3号被保険者とされ、2022年で約700万人となっている。この第3号被保険者については、以下のような問題点がある。
第1に、専業主婦だけでなく、パートタイム主婦の場合にも、配偶者の基礎年金に保険料の負担なく加入できる。
もっとも、これには一定の条件があり、「従業員51人以上」「週20時間以上」「年収106万円以上」といった要件を満たすと、自ら勤務先の厚生年金に加入し、保険料を負担しなければならず、その直前で就業を止める場合が多い。
この「働き方の壁」のために、パートタイム主婦に大きく依存する小売店などからは、「(年間の収入額を抑制するために)年末の忙しい時期に仕事を辞められては困る」という陳情が政府に寄せられている。
第2に、このため2024年度の財政検証(年金改正)では、厚生年金保険の適用対象者の条件を「週20時間以上」だけに限定し、多くのパートタイム主婦の働き方の壁を引き下げようとしている。もっとも、この対策でも、年収130万円という、もうひとつの「働き方の壁」を越えることはできず、抜本的な解決策にはなっていない。
第3に、こうした「働き方の壁」が生じるのは、保険料なしに基礎年金が受給可能という、同一所得の単身者と比較した被用者世帯の「配偶者の特権」が失われることによる。
もっとも、厚労省によれば、所得が同一の共働き世帯と比べた、片働き(専業主婦)世帯には不公平は存在しない。
なぜなら、同一所得の世帯で負担する保険料は同額であり、どちらの世帯も定額の基礎年金(1階部分)を2人分受け取り、厚生年金(2階部分)も現役時代の報酬に比例するため、世帯で受け取る年金額も同額になるからという。
しかし、ここで比較の対象を、世帯主の所得だけに限定してみよう。
世帯主の所得が同一の共働きと片働き世帯を比較すると、同一の保険料で、片働きでは2人分の基礎年金を得ている。これに対して、共働きでは、働く配偶者が自らの基礎年金費用を負担しているために、世帯主は1人分の基礎年金という差が生じる。
この差が現実に、パートタイム主婦にとって、130万円の壁を越えて働くことが不利になるペナルティーとなって生じているのだ。
なぜ、このようなゆがんだ制度ができてしまったのか。どのように改革していくべきなのか。次ページでは、第3号被保険者制度の経緯を振り返りつつ、その矛盾と解決策を解説する。