厚生年金の適用要件から収入基準と企業規模基準を除くことになり、いわゆる「106万円の壁」はなくなる。ただ年収要件が撤廃されても、週20時間以上働けば、厚生年金保険料と健康保険料の負担が生じることに変わりはない。働き控えを防ぐために企業が保険料をより多く負担する特例も議論されているが、負担できる企業とできない企業の格差を生じさせかねない。特集『年金制度大改革 損↓得↑徹底検証』(全10回)の#2では、厚生年金の適用拡大での個人や企業の損得勘定、年金財政への影響を検証する。(ダイヤモンド編集部 竹田孝洋)
手取りが減る106万円の壁が
働き控えをもたらす
「年収の壁」――昨年の総選挙以降、この言葉を聞かない日はないだろう。さまざまな“壁”があるのだが、よく取り上げられるのは「103万円の壁」と「106万円の壁」だ。
国民民主党が103万円の壁の引き上げを昨年の総選挙の公約とした。103万円の壁は、税に関わるものだ。企業などに勤める給与所得者の給与が103万円を超えたら、所得税がかかる。所得税がかかり始める基準を103万円より引き上げることで手取りの金額を増やそうというのが国民民主党の公約だ。
106万円の壁は社会保険料に関わる年収の壁である。厚生年金への加入が義務付けられている会社に勤めて、給与が106万円を超えると厚生年金と健康保険に加入して社会保険料を支払うことになる。
給与所得が103万円を超えて所得税がかかり始めても手取りが減るわけではないが、106万円を超えた途端に厚生年金保険料と健康保険料を合わせて年間で約15万円を支払わなければならないから、手取り金額が減少する。
そのために、パート、アルバイトなどの短時間労働者の多くは収入が106万円を超えないように労働時間を調整してしまう。いわゆる“働き控え”である。
人手が不足していない状態であれば、働き控えはそれほど大きな問題にはならないが、現在、さまざまな産業、企業において人手不足は深刻になりつつある。
そこで、今回の年金制度改革の柱の一つである厚生年金の適用拡大に当たって、働き控えの原因である106万円の壁解消に向けた施策が検討されている。
次ページでは、適用拡大の具体案を取り上げ、働き控え解消などに実効性があるかを検証する。