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「卵子凍結」を福利厚生として導入する企業が急増しています。ドン・キホーテや伊藤忠など、名だたる企業が費用を負担する動きに、「女性活躍の切り札」と期待する声も。しかし、本当にそうでしょうか?先行する「卵子凍結大国」スペインの意外なデータや、日本の歴史を紐解くと、この便利な制度が逆に少子化を加速させかねない、皮肉な未来が見えてきます。(ノンフィクションライター 窪田順生)
卵子凍結大国・スペインで
子どもは増えたのか?
「え? 今どき卵子凍結にお金を出してくれないの? そんなブラック企業やめときなよ」
そんな会話が当たり前になっていくかもしれない。卵子を凍結保存し、妊娠希望時に融解して体外受精を行う「卵子凍結」が大手企業の間で福利厚生として広がりを見せているからだ。
きっかけは、東証プライム上場の株式会社セルソースが24年2月、卵子凍結の保管を受託するサービス「卵子凍結あんしんバンク」をスタートしたことだった。
翌月には伊藤忠がキャリア継続支援の一環で、福利厚生として導入を発表。これを皮切りに、ユニ・チャーム、ファミリーマートなど大企業だけではなく、中小企業も相次いで導入。今年11月には、ドン・キホーテやアピタで知られる株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスも福利厚生として導入、保管費用を全額負担するという。
もともと卵子凍結の費用補助は自治体が進めていた。例えば、東京都では23年から実施した年度に上限20万円、保管は毎年2万円(最大5年間)を出していたし、区によってはそれに上乗せする形で補助していた。また、国も動き始めている。こども家庭庁は卵子凍結を希望する女性への費用補助をする方針を固め、26年度予算の概算要求に関連費用として10億円を計上している。
そこに企業の福利厚生も増えていくとなれば、社会に出たばかりの若い女性たちの間で「卵子凍結」という選択肢が、スタンダードになっていく可能性がある。
世の中には、いつか子どもを産み育てたいと思いながら、仕事の事情や病気による投薬治療などですぐには難しいという女性が多くいる。また、子どもが欲しいと思ったときに、ある程度の年齢を迎えていて、なかなか子宝に恵まれないという女性もいる。そういう人々のためにも、この動きをぜひ社会全体に広げていただきたいと思う。
ただ、一方で社会が注意すべきは、これはあくまで「女性一人ひとりの人生設計の助けになる」というだけの話であって、安易に「少子化対策」や「女性活躍」といった国策に結びつけてはいけないということだ。
つまり、「卵子凍結という選択肢が増えれば、子どもを持とうという人が増えるに違いない」とか「これで妊娠適齢期に縛られることなく女性がバリバリ働ける」などという“ご都合主義的な妄想”を唱えないほうがいいということである。







