こういう「いちいち言わせるな」って言葉の背景には、「自分から言わなくても、周りは自分の気持ちを読み取ってくれる」という期待があるんですよね。それに「他人は自分と同じ考えをしているから、自分の期待を満たしてくれる」と誤解している。だから「言わなくても察して先回りしてくれよ!」が基本的なスタンスになっているわけです。

超能力者じゃないので
先回りなんてできません

 当時の僕は今ほどメンタルが図太くありませんでした。だから、言われてないことでも上司の考えを読み取れないと社会人失格だと思っていました。上司の気持ちを察して期待を満たさないと、上司との関係が悪くなってしまうことが怖かったんです。

 ですが、あれからより深く心理学の勉強をして思うのは、他人の気持ちを正確に読み取るなんてムリがあるってことなんですよね。僕たち人間は超能力者じゃないから、言葉になってないことは分からないのが普通なんです。だから「なんでもかんでも読み取らなくちゃ」とか「先回りしてやってあげよう」と思うこと自体にムリがあるんですよ。

 生まれたばかりの赤ちゃんは言葉が話せないので、親が注意深く観察する必要があります。赤ちゃんが泣き始めたら、何をしてほしいのかを察してミルクをあげたり、おむつを取り替えたりすることで、赤ちゃんの期待に応える。これが親と、言葉が話せない赤ちゃんには望ましい関係です。

 一方で、言葉が話せる大人同士の関係は赤ちゃんとは違います。ちゃんと言葉でしてほしいことを伝えるのが、大人としてのあるべき姿ですよね。だから、僕の元上司はある意味で赤ちゃんと同じような「言わなくても察して」という甘えをしていたわけです。

 こういう、未熟な心理を持っている人の気持ちを察していろいろ先回りしてやってあげてしまうと、相手はどんどん子ども返りしてしまいます。だって、赤ちゃんが親にやってもらえるように、何も言わなくても自分の思いどおりになる楽な状況ができてしまうわけですからね。