心療内科やメンタルクリニック、精神科で処方されることも多い睡眠薬「ゾルピデム」(商品名マイスリー)が、「脳のゴミ排出システム」の作用を妨げ、認知症になる可能性を指摘した論文が、世界の医療界や製薬業界をざわつかせている。この分野の権威でデンマーク出身の神経科学者、マイケン・ネダーガード氏に話を聞いた。(国際ジャーナリスト 大野和基)

ゾルピデム、メラトニン、スボレキサント
睡眠薬によって認知症への影響が異なる?

――あなたは、有名な睡眠薬「ゾルピデム」(商品名マイスリー)が、認知症に深く関係する「脳のゴミ排出システム」の作用を妨げる可能性を指摘しています。そのメカニズムについて詳しく聞かせてください。

 覚醒をつかさどる脳内物質ノルアドレナリンは、神経細胞から放出される物質ですが、睡眠薬を飲むと、その活動を抑制することで人を眠らせます。それは自然なことではありません。

 ノルアドレナリンは、実は、脳のゴミ排出システムを働かせる機能も合わせ持っています。睡眠薬を服用すると眠った状態になっているかもしれませんが、脳のゴミ掃除は十分にできていないのです。脳の掃除が30%も減退することが分かっています。

――ゾルピデム以外の薬で、脳のゴミ排出システムに関与するものはありますか?

 ゾルピデムと同じ系統は、ノルアドレナリンを抑制するものです。「メラトニン」は違います。メラトニンは睡眠導入剤としては作用しません。いわゆる体内時計を調整するものであり、時差ぼけを調整する時に有効です。

マイケン・ネダーガードマイケン・ネダーガード/グリンパティック・システム(脳のゴミ排出システム)の発見で世界的に知られる、デンマーク出身の神経科学者。米ロチェスター大学メディカルセンター神経科学および神経学の共同教授。また、コペンハーゲン大学トランスレーショナル神経医療センターのグリア細胞生物学教授でもある。

――睡眠薬の「スボレキサント」(商品名ベルソムラ)が、認知症予防に有用な可能性を示唆する臨床試験結果が、米ワシントン大学セントルイス睡眠医学センター所長のブレンダン・ルーシー氏らによって発表されています。睡眠薬の種類によって影響が異なるということでしょうか。