事後保全から予防保全への転換に
費用は4分の3未満にできる計算

 これについて、いくつかの推計が行われている。

 2月13日付の本コラム『日本で維持・更新できる社会資本は「7~8割」!?インフラ“老朽化時代”の日本の選択』ではそのうちの一つを示した。

 2011(平成23)年度 の国土交通白書に掲載されているデータを基としたものだ。

 維持補修費についての考え方は、その後、転換されている。大きな変化は「予防保全」とか「事前改修」と呼ばれる考えが取り入れられたことだ。

 これまでは、施設に不具合が生じてから対策を行う「事後保全」だった。それから、耐久年数が来る前に検査を行い、施設に不具合が生じる前に対策を行う「予防保全」への転換だ。

 具体的な方法としては、例えばドローンを使用して検査し、問題を見つけたら、早期に修理する。その際、AIも活用する。

 国土交通省によれば、事前補修を行うことによって、維持管理・更新費を大幅に削減できる。

 この試算結果は「平成30年度推計」の一部として公表されている(注1)。

 この資料では、事後保全を行う場合との比較を行っている。その結果の一部を図表1のa、b欄に示す。

 a欄は、平成30年度推計による、インフラの維持管理・更新費を示す。ここでは予防保全がなされると仮定されている。

 なお、これらの計数は原資料では幅を持って示されているが、ここでは計算上の便宜から原データの下限値を示すこととした(例えば2023年度のa欄は、原資料では5.5~6.0兆円)。

 b欄は、事後保全がなされる場合のインフラの維持管理・更新費(同じく下限値)だ。

 a/b欄は、予防保全による維持管理・更新費の削減度を示す。23年以降のどの年度でも、費用を4分の3未満にできることが分かる。

 このように予防保全の効果は著しいと評価できる。

 方法を変えるだけで、これだけ顕著な費用節約効果が得られるのは、ある意味では驚くべきことだ。

 なお、a欄でもb欄でも、今後に更新は必要な社会資本が急速に増えてくる。特に48年頃の値が非常に大きくなる。これは前述のコラムで示したデータと同じ結果だ。日本がこれから社会資本の問題で大きな問題を抱えることを示している。

(注1)「国土交通省所管分野における社会資本の将来の維持管理・更新費の推計 (平成30年度)」(ここでは道路、下水道など部門別の数字も示されている)

社会資本維持費用、9割程度手当て可能
効果は著しい予防保全

 では、必要な維持管理のうち、どの程度を実行できるか。

 国土交通省関係の公共事業関係費は、2014(平成26)年度 以降、どの年度でも5.2兆円から5.3兆円程度だ(注2)。そこで、ここでは維持管理・更新に充て得る予算額は、5.25兆円と仮定した。

 5.25/a、5.25/b欄に示す数字は、以上の仮定の下で、a、b欄に示す必要維持管理のうち、どれだけが手当てできるかを示す。

 事後保全の場合、2038年度まで6割から7割程度しか手当てできない。2048年度では半分も手当てできない。

 6割か7割程度しか維持できないのは、前述のコラムで示した結果とほぼ同じ(あるいは、それ以下)だ。

 しかし、予防保全の場合には、どの年度も9割程度を手当てすることができる。このように予防保全の効果は著しいと評価できる。

(注2)「公共事業関係費(国土交通省関係)の推移」(国土交通省、2024年12月)