
米トランプ大統領との関税交渉が本格化している。経済産業省出身で経済安全保障政策や製造業に詳しい鈴木英敬・衆議院議員を直撃。特集『関税地獄 逆境の日本企業』の#8では、トランプ関税ショックが半導体・自動車など国内産業に与えるインパクトや交渉を左右する“日本の戦術”について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 編集長浅島亮子、井口慎太郎)
新進気鋭の若手議員が激白!
トランプ交渉で日本優勢に導く戦術とは
――赤澤経済再生担当大臣の1回目の訪米は「交渉のお土産」や高度な交渉戦略なく実施されたとの批判がありますが、それについてはどうお考えですか。
トランプ大統領が会談に出てきたことは想定外でしたが、むしろ交渉のゴールを見極めるという観点では、かえって良かったのではないでしょうか。
USTR(米通商代表部)のレポートにはミクロの項目が多く記載されているため、メディアの皆さんは個別論が気になるかもしれません。
でも、これまでホワイトハウスが出しているステートメントは、「製造業の復活」や「貿易の不均衡」など、マクロの観点にとどまっています。つまり、交渉のゴールがどこにあるのか見極め切れていないのです。最後はトランプ大統領が決定するわけですから。
最初の訪問で無理に成果を見せようとすると、米国側の本当の要求や交渉のゴールを見誤ってしまうかもしれません。例えば農業や自動車など、個別の譲歩を「お土産」として持っていったところで、米国側から「それは違う」とか「それでは足りない」といわれる可能性が高い。中途半端な妥協をするよりも、今回は冷静に「宿題」を持ち帰り、腰を据えて交渉する方が長期的には有利だと思います。
今回は、米国側の本音を見極め、今後の交渉戦略を練るための重要な機会だったと評価しています。
――諸外国の先頭を切って日本が交渉したことは、どう評価していますか。
正直言って、それが吉と出るか凶と出るかはまだ分かりません。
米国としては、まずは中国との関係がメインにあり、日本を味方に引き込みたい。米国が90カ国全てと交渉するのは不可能なので、日本との交渉を「理想のモデル」として提示し、他国にも同様のアプローチを促す作戦なのでしょう。
日本の後ろに並んでいる国々には、日本と関係が良好な国も多く、日本がどう交渉するかが、ある種の「相場感」になるわけです。日本が高い要求を突きつけられて押し込まれる可能性もあるし、逆に良い条件でまとめられる可能性もあります。
政府や総理・閣僚は、日本が先頭にいることが良いと発信していますが、一方で、米国の経済状況が悪化した後の方が交渉上有利という考え方もあります。先頭が良かったかどうかは、現時点では判断が難しいです。
――半導体議連(半導体戦略推進議員連盟)やラピダス議連(ラピダスプロジェクトを起点とする北海道バレー構想推進議員連盟)にも名前を連ねていますよね。
はい。“半導体男”ですね。半導体は経済安全保障上の戦略物資なので、力を入れています。自動車議連には重鎮の議員が多くまだ役職は就いてないですが、インナー会議には呼ばれています。
米国に多く輸出されている製品としては、自動車の他に、建設機械や金型(自動車部品)の動きも注視しています。
――日本は半導体・AI(人工知能)分野に10兆円の公的支援を決定し、半導体投資に積極姿勢を示しています。一方で、米半導体大手のエヌビディアが、台湾積体電路製造(TSMC)と台湾フォックスコンとともに、米国内でAI半導体とAIサーバーの一貫生産体制を構築しようとしています。これは、ここ数年で築いてきた日米台韓のサプライチェーンが崩れる危機なのではないでしょうか。