アメリカでベストセラーとなり、多くの称賛の声を集めた『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』がついに日本に上陸した。著者のブラッド・スタルバーグはマッキンゼー出身で、ウェルビーイング研究の第一人者。この本が指摘するのは、「私たちの人生を無意識のうちに消耗させる思考と行動の癖」だ。本稿では、本書の内容をもとに、「忙しさに追われる毎日の中で、心の余裕を取り戻す方法」に迫る。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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行事には「すごい効能」がある
「気づけば、もう三月」「今年度もあっという間だった」──そんなふうに感じることはないだろうか?
忙しさに追われる日々。朝起きて、仕事に向かい、帰宅して、また翌日が始まる。気がつけば一週間が過ぎ、一ヵ月が過ぎ、一年が終わる。ただ流されるように時間が過ぎていく感覚に、虚しさを覚えたことはないだろうか?
仕事や生活に追われていると、心に余裕がなくなり、ただ流されるように時間が過ぎていく感覚に陥りがちだ。
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ウェルビーイング研究の第一人者であるスタルバーグは、行事が心の余裕を生み出し、人生に秩序と安定をもたらすと語っている。
ルーティンによく似ているのが行事だ。安定していようが混乱していようが、人々が定期的におこなう特定の活動のことだ。
「(行事は)心の余裕を生み出し、普段ならばかばかしいと思うような考えが浮かぶこともある。過ぎゆく時間の中での静かな畏怖の念。あらゆるものが変わっていく様子。あらゆるものが変わらない様子など」と作家のキャサリン・メイは書いている。
たとえば週に一度の礼拝、月に一度のご近所さんとの夕食会、毎朝キャンドルに火を灯すこと、毎週日曜日の仲間たちとのツーリングなど。ルーティンと同様に、周囲のすべてが激変していようとも、行事は秩序と安定をもたらしてくれる。
さらにボランタリー・シンプリシティ(自発的簡素)を実践するのにも、行事は安定した基盤になる。たとえばわたしは世界で何が起きようとも、毎週金曜日になると犬を連れて森を長時間歩く。そしてその時間と空間においては、人生がシンプルで管理しやすく感じられる。
──『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』より
行事を取り入れることで、心の余裕を取り戻せる
ルーティンにも似ているが、行事は単なる習慣ではない。定期的にやってくる特別な時間だ。
スタルバーグによれば、行事には二つの大きな役割があるという。
一つは、日々の慌ただしさから強制的に抜け出せることだ。
たとえば、毎週日曜日に家族と食卓を囲むこと、月に一度友人と集まること、年に一度神社に初詣へ行くこと──これらが時間の区切りとなり、日々の忙しさから一度離れて、心をリセットする効果がある。
慌ただしく働いていると、視野が狭くなりがちだ。どんなに忙しくても、決まった行事を続けることで、生活にリズムが生まれ、心の余裕を取り戻せるのだ。
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行事は「時間の流れを意識する機会」
行事のもう一つの大きな役割は、時間の流れを感じることだ。
日々オフィスで忙しく働いていると、季節の移り変わりを感じにくくなるのではないだろうか。夏でも冬でも同じように過ごし、あっという間に一ヵ月、一年が過ぎていくと感じている人も少なくないはずだ。
たとえば、毎年春に桜を見に行く習慣があるとしよう。
その年の桜を見ながら、「去年はどんな気持ちでこの桜を見たのか」「去年と比べて自分はどう変わったのか」と振り返ることができる。自分が大切にしている何かを思い出すこともできるかもしれない。
慌ただしく流れていく毎日の中で一度立ち止まり、自分自身の変化や成長に気づくことができる。それが行事の持つ大きな力だとスタルバーグは強調している。
忙しい人こそ「小さな行事」を取り入れよう
「行事を大切にしよう」と言われると、大掛かりなイベントを想像してしまうかもしれない。
しかし、スタルバーグが述べるように、行事は「毎朝キャンドルに火を灯す」「週に一度、大切な人とゆっくり食事をする」といった些細なことでも構わない。
こうした「小さな行事」を生活に取り入れることで、時間があっという間に流れていくという感覚が和らぎ、毎日をより充実して過ごせるのではないだろうか。日々の忙しさに追われ、人生がただ流れていくように感じる人にこそ、ぜひ読んでほしい一冊だ。
※本稿は『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』の内容を一部抜粋・編集したものです。