アメリカで大きな話題を呼び、多くの読者に新しい視点を与えた『Master of Change 変わりつづける人』(ブラッド・スタルバーグ著、福井久美子訳)が指摘するのは、人生を消耗させる「思考の癖」だ。本稿では、本書の内容をベースに、自分らしい生き方を取り戻すコツを紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
「自分らしさ」への執着を捨てる
「自分らしい働き方」や「自分らしさを活かす仕事」といったメッセージをよく目にする。
マッキンゼー出身で、ウェルビーイング研究の第一人者スタルバーグは、自分らしさを追求しすぎる生き方の危険性を次のように指摘している。
何かに打ち込みすぎて、それをアイデンティティと混同すると、不安やうつ病、燃え尽き症候群に陥りやすくなることは、膨大な数の研究結果からも証明されている。
(P.138)
私たちが問題を抱えるのは、強いアイデンティティが1つの仕事や人、概念にこだわり、それに執着する時だ。
(P.169)
アイデンティティを多様化する
実はスタルバーグ本人が強迫性障害に襲われ、2次障害でうつ病を発症したと告白している。
そして、この経験を通じてたどり着いた解決策が、アイデンティティを多様化するという方法だ。
誰もがみな、いろんな顔を持っている。たとえば、親、パートナー、子ども、きょうだい、会社員、重役、内科医、友人、隣人、アスリート、パン職人、アーティスト、芸術家、弁護士、起業家など。自分のアイデンティティをリストにしてみよう。
・存在意義や自尊心のよりどころとして、頼りすぎているアイデンティティはないか?
・自己認識を多様化したらどうなるか?
・特定の活動に専念したい場合、他の役割もきちんとこなすにはどうすべきか?
(P.328)
1つの活動にすべてを懸けるのは構わないが、状況が変わった時のために、他の可能性も用意したほうがいいだろう。
もっと良いのは、さまざまなアイデンティティを1つに調和させて、包括的なアイデンティティを作ることだ。そうすればその時々に応じて、特定の顔を前面に出したり引っ込めたりできる。
わたしの人生を振り返ると、一部のアイデンティティにどっぷり浸っていた時期がある。たとえば、父親、夫、作家、コーチ、友だち、アスリート、隣人といったアイデンティティだ。アイデンティティのどれかを軽視すると、人生がうまくいかなくなることを身をもって学んだ。
他方で、すべてのアイデンティティをしっかり保てば、人生のいずれかの領域がうまくいかなくなっても、別の領域に頼ることで活力が湧いて、自分を取り戻せることがわかった。すると、しっかりと地に足がついて、どんな困難も切り抜けられるようになる。
(P.328~329)
「自分らしさ」にこだわるあまり、「私はこうあるべきだ」という気持ちが前に出すぎると、自己評価が厳しくなってしまいがちだ。
複数のアイデンティティを持つことが、ストレスや心の疲労を軽減する一助になるだろう。
※本稿は『Master of Change 変わりつづける人』の内容を一部抜粋・編集したものです。