アメリカでベストセラーとなり、多くの絶賛の声を集めた『Master of Change 変わりつづける人――最新研究が実証する最強の生存戦略』がついに日本に上陸した。著者のブラッド・スタルバーグはマッキンゼー出身で、ウェルビーイング研究の第一人者。この本が指摘するのは、人生を消耗させる「思考の癖」だ。本稿では、本書の内容をベースに、感情的にならず冷静に行動するための方法を紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「すぐに感情的になる人」と「そうでない人」の習慣。その決定的な違いPhoto: Adobe Stock

感情的に反応する人と、冷静に対応できる人の違い

 朝の忙しい時間、職場でミスを指摘された瞬間、相手が自分の話を聞いてくれない時。感情的になる人もいれば、冷静に対処する人もいる。

 なぜ、同じ状況にあっても「感情的に反応する人」と「冷静に対応できる人」がいるのだろうか。

 本書の著者スタルバーグは、神経科学者ヤーク・パンクセップの研究を取り上げ、次のように解説している。

 神経科学者の故ヤーク・パンクセップは、扁桃体の主要部分を“怒り回路”と呼んだ。アイデンティティや安定感が脅かされた時、ほぼ確実に活性化される神経回路だからだ。

(P.234)

 本能的に人間は脅威を前にすると、反応的に怒りの感情を抱えてしまうようだ。だが同時に、脳の中には、常に怒りの感情を制御する機能があることも説明している。

 それは、パンクセップが“ワクワク回路”と名付けた神経回路だ。

 ワクワク回路は、計画を立てたり問題を解決したりするのを促す働きがある。問題に直面した人が、無力感にさいなまれたり、衝動的に逃げたりせずに主体的に動く時、その根底ではワクワク回路が機能している

(P.235)

 パンクセップ(およびその他の研究者たち)の研究から、怒りの回路とワクワク回路がリソースを奪い合い、ゼロサムゲームをしていることがわかった。つまり、ワクワク回路がつながると、怒り回路は遮断されてしまうということだ。

 

 ほとんどの人が身に覚えのあることだろう。計画を立てたり、難題に注意深く取り組んだりしながら、かんかんに腹を立てて激怒することはほぼ不可能だ。

 

 脳は主体的な対応と反応を同時におこなうことができないため、脳の機能が前者に取り組む間は、後者のような怒りのスパイラルに陥らないのだ。

(P.236)

 2つの神経回路は、一方が活性化すれば他方が抑制される関係にあるというわけだ。では、ワクワク回路を意識的に優勢にすることはできるのだろうか。

 スタルバーグは、それが可能だと述べている。

主体的な行動は、さらなる主体的な行動を生む

 意図的な行動を取るたびに、神経伝達物質のドーパミンが放出される。

 

 ドーパミンが放出されると、気分が良くなってやり続けようという意欲が湧いてくる。

(P.236-237)

 主体的に行動すると、脳内でドーパミンが放出される。本書によれば、ドーパミンはワクワク回路の燃料のようなものであり、ドーパミンがさらなる主体的な行動を促してくれるようだ。

 今日意志を貫いてわずかでも生産的な行動を取れれば、ワクワク回路が有効になり、明日も同じような生産的な行動を取りやすくなる。ドーパミンが放出されてワクワク回路が優勢になり、ワクワクを求めて生産的な行動が積み重なっていく。

(P.239)

 日頃から主体的な行動を取る人ほど、次も冷静に行動できる。つまり冷静に行動する習慣を持てるかどうかが、カギになるわけだ。

 感情的に反応しそうになった時に、少しでも自制心を発揮して主体的な行動を心がける。これを繰り返すことが、感情的に反応してしまうことを減らすコツのようだ。

※本稿は『Master of Change 変わりつづける人』の内容を一部抜粋・編集したものです。