10年連続で算数オリンピック入賞者を輩出している彦根市発の知る人ぞ知る塾「りんご塾」。天才を生み出すそのユニークな教育メソッドを、塾長の田邉亨氏が初公開した書籍『10年連続、算数オリンピック入賞者を出した塾長が教える 「算数力」は小3までに育てなさい』(ダイヤモンド社刊)が、好評です。本稿では、本書の刊行を記念して行われた、りんご塾・塾長の田邉亨氏と算数教育家の安浪京子先生との「算数力アップ」対談から抜粋し子どもの能力を伸ばすコツを紹介します。

【田邉亨×安浪京子 算数のカリスマ教師2人が断言】子どもの才能を伸ばす親、潰す親の違いとは?Photo: Adobe Stock

マイブームを低学年のうちに極めよう

田邉亨(以下、田邉):結果を最初から求めるのではなく、子どもの「好き=マイブーム」という気持ちを親御さんが応援している場合、結果的に子どもは伸びていくように感じます。
今回のセミナーでは、子どもさんの「マイブーム」を書いてもらったんですが、いろんな答えがありましたね。野球観戦が好きな子、「訴訟法」が好きという人もいました。中学受験がマイブームと書いてくれた子もいましたね。

安浪京子(以下、安浪):才能を伸ばすという話に「中学受験」が絡んでくると、親御さんの考え方に偏りが出てくることがありますね。たとえば、「算数が好き」「漢字が好き」なら才能として認めるのに「ゴキブリにめちゃくちゃ詳しい」というのは認めなかったり。そのように親が受験に都合のいいものだけをすすめないようにするのが大事ですね。

田邉:特に低学年のうちは学校の勉強は最低限やり、あとは自分のマイブームを極めるのがいい。うちの塾の子には「検定」をたくさん受けて、その級を上げていくのがマイブームになる子もいるんですよ。数学検定などでも、下の級からどんどん上がっていって、その証書を全部、飾っている子がいます。親は「6級に合格したら10級の証書はいらないだろう」と思うかもしれないけど、子どもは「コレクター気質」のことが多いから証書を集めることがブームになったりする。

安浪:そうですね、とにかく低学年のうちに夢中になれるものを持つことは大事ですね。高学年になって受験勉強が始まると、そのマイブームにさける時間が少なくなってきますから。とはいえ、ときどき、低学年のお子さんで、おけいこごとを1日に2個も3個もかけもちしている子がいますよね。それだけ全部こなせるのも、その子の才能だなとは思うけど、あまりギチギチだと、ようやく調子が出て楽しくなってきた頃に「はい、次!」って次のおけいこにいくのはかわいそうだなと思いますね。分単位のスケジュールって、子どもに最も向いてないんじゃないかと思います。

田邉:僕もそう思います。子どもには「余白」を与えることが大切。余白がなかったら伸びないです。余白の時間に人間はいろんなことを考えるのでね。子どもにも奥さんにも旦那さんにもほっとする時間を与えてあげてほしいですね。

安浪:最近の子は、電車の移動中もスマホを見たり、デジタルサイネージに目を奪われたりして、ひとりでぼーっと考える時間がどんどん減っていますよね。意識してぼーっとする時間を確保する必要がある時代になったと思います。

田邉:教育熱心な親御さんはすごくひたむきで真面目である方が多いですが、目先の点数だけにとらわれず、長い目で見てあげるほうが結果的に才能を伸ばしますよね。

安浪:私も教え子で、もう社会人になった子もたくさんいますが、先々までずっと見てると、ゴールはもちろん中学受験でもないし大学受験でもないということがよくわかります。大学受験に成功してもその後ニートになることもあるし、先はわかりません。

田邉:僕自身の経験から言うと、たとえニートになっても27歳くらいまでは、試行錯誤していいんじゃないかな。実際僕も27歳で結婚するときにやっと「働かなきゃ!」と思って働き始めました(笑)。結果が出るのは、50歳を過ぎてからかもしれないけど、いいじゃないですか。焦らずに色々経験することで人は伸びていくと思います。

*本記事は、『10年連続、算数オリンピック入賞者を出した塾長が教える 「算数力」は小3までに育てなさい』(ダイヤモンド社刊)の著者・田邉亨先生と、『中学受験必勝ノート術』『中学受験 大逆転の志望校選びと過去問対策』(ともにダイヤモンド社刊)の著者・安浪京子先生の対談から、抜粋・編集したものです。