
2024年の訪日外国人(インバウンド)数が3687万人、年間旅行消費額は8.1兆円で過去最高を記録した。日本がインバウンドマネーで潤う一方で、観光客のマナー違反やオーバーツーリズム(観光公害)も指摘される。日本は観光立国になれるのだろうか。『観光亡国論』の著書があり、『情熱大陸』に出演経験もある東洋文化研究者アレックス・カー氏に話を聞いた。(国際ジャーナリスト 大野和基)
インバウンドで観光「亡国」になるのか
――あなたは『ニッポン景観論』(2014年、集英社新書)に続いて、『ニッポン巡礼』(20年、集英社新書)でも日本の景観の素晴らしさと課題を解説していますね。日本の景観にはどんな特徴がありますか。他国とは違う魅力があるのでしょうか?
例えば、日本には「苔」ができますよね。私は今、京都とタイに居ることが多いのですが、タイは雨の降り方が日本とは全く違います。タイはバシャ―ッと降って、そのあと青空になってカラッとします。一方、日本は雨の降り方の表現で「しとしと」と言われるものがある。その違いが、日本の自然の美しさを生み出しています。
何より日本が素晴らしいのは、四季がはっきりしていること。今の時期、私の亀岡(京都)の自宅では椿が咲きます。椿は花びらが落ちるのではなく、花そのものがポトッと落ちるのが特徴で、苔の上に落ちたその時の様子は本当にきれいです。
日本の景観や和風建築に限らず、俳句、茶席、和食、和服など、「和」には四季が深く関係しています。芸術のほとんどに四季が関わっているのです。
特に和食は「旬」が強調されます。和食は旬の素材を生食しますよね。中華料理のように揚げたり強火で焼いたりの調理をせず、和食は火を軽くしか通さないのが特徴です。
――なるほど。日本の景観は単純に景色が良いといったことではなく、四季や旬までセットなんですね。
ホテルに入ると、ロビーにその時期ならではの花が飾られ、四季を感じさせます。良い旅館は時期もそうだし地元の草花を活けている。
例えばイギリスでも「夏は薔薇」と決まっていますが、日本はもっと短い期間で草花を入れ替えていく。日本には四季どころか「二十四節気」(春夏秋冬それぞれを6つに分けたもの。冬至、立春など)という言葉もあります。実際、日本にいると、そうした変化を感じることができます。桜の季節でも、花見に行ったら、そのうち花びらが散り、次の時期に移っていくのが分かります。
―――でも、日本の夏の異常な蒸し暑さは、嫌われるのではないでしょうか。
私はその時期は日本を離れて、タイに逃げますね。バンコクは京都ほど蒸し暑くない。京都の夏は地獄のようです。以前は日本観光にもハイシーズンとローシーズンがありました。今でも春と秋は人気ですが、たとえ蒸し暑い夏でも、寒い冬でもインバウンドは来ていますね。観光シーズンという概念がなくなりつつある。
――日本でもオーバーツーリズムが問題になっています。どのように解決すればいいと思いますか?有名な観光スポットでは「二重価格」制度がアイデアとして出ていますが。