西成署前の路上に積み上げた自転車の山には火が放たれた。署の窓ガラスは投石でことごとく割られた。

 投石に使われたのは署の東西を走る歩道の敷石。景観を良くしようと地元の要望で敷かれたものだった。

 これが工具ではがされ、砕かれて投げ込まれた。署長も投石でほおにけがをした。

 投石を防ぐため、ベニヤ板を窓の桟にはめ込んだ。ベニヤ板は路上でサイコロ賭博をするときに使われていて、押収したものが多かった。

「そうでもしないと無防備でこちらがやられてしまう。でも、板でふさいだので暗くて、朝か夜かもずっとわからなかった」

 署の廊下や階段では汗だくの機動隊員が交代交代で体を休めていた。歩く場所もないくらいだった。

市原研吾(いちはら・けんご)
記者になって四半世紀余り。朝日新聞社入社後、福井、和歌山、兵庫、大阪で主に事件を担当。投資詐欺や組織犯罪の取材に力を入れる。現在は大阪社会部の遊軍(何でも屋)。ダイナマイトを使った「ノミ行為」摘発の取材がきっかけで釜ケ崎かいわいに通うようになった。
矢島大輔(やじま・だいすけ)
2007年、朝日新聞社に入社。秋田、東京、沖縄、大阪で勤務。伝統的な祭りや習俗、経済事件、教育、災害、沖縄の基地問題などを取材。24年からは東京社会部で、防衛省・自衛隊を担当している。ディープな世界に関心があり、西成に
「本当にスラム化」「ここは日本なのか」……大混乱の「西成暴動」で元署員が見た怒号・投石・放火の現場『西成DEEPインサイド』
市原研吾 (著), 矢島大輔 (著)
定価1,650円
(朝日新聞出版)

AERA dot.より転載