「人生を好転させる鍵は、変化にどう向き合うかにある」このシンプルな真実を科学的に解き明かし、アメリカで大きな話題を呼んだのが『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』だ。多くの絶賛を集めたこの一冊がついに日本に上陸した。著者のブラッド・スタルバーグはマッキンゼー出身で、ウェルビーイング研究の第一人者。彼が明かすのは、私たちの心を知らぬ間にすり減らし、日々の満足感を奪っている思考の落とし穴だ。なぜ同じ出来事に直面しても、穏やかで機嫌よく過ごせる人と、すぐに不満を抱えてしまう人がいるのか? 本稿では、本書の知見をもとに「不満を抱えやすい人の思考回路」と「機嫌よく生きるためのヒント」を探っていく。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

電車が少し遅れただけで、すぐにイライラする人
「ただ今この電車は、途中駅でのお客様対応の影響により、約10分遅れての運行となっております」
電車の遅延は日常的な出来事だが、人によって受け止め方は大きく異なる。「また遅延か、最悪だ」とイライラする人もいれば、「まあ仕方ない、少し本でも読もう」と落ち着いて受け止める人もいる。
上司や同僚から「今日中に急ぎの資料をまとめてほしい」と頼まれた場合をどうだろうか。
自分の予定にはなかった追加の仕事が突然降ってくる状況に対し、「なんで急にこんなことを頼むんだ」と苛立つ人もいれば、「短時間で効率的に仕上げる方法を考えよう」と前向きに対処する人もいる。
同じ出来事に直面しても、機嫌がいい人と悪い人では反応が大きく異なる。周りには、いつも穏やかで機嫌がいい人もいれば、何かにつけて不満を口にする人もいる。
些細なトラブルで心の余裕を失うような人にはなりたくないものだ。この両者の違いはどこから生まれるのか。
心理学的調査によると「幸福=現実-期待」
『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』では、人が不満を感じる瞬間の心理をこんなふうに説明している。
数多くの心理学的調査から、ある瞬間に人がどれだけ幸福だと感じるかは、期待から現実を差し引いた結果で決まることがわかった。現実が期待と一致する、または期待以上だと、気分が良くなる。現実が期待を下回ると不満を覚える。
──『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』より
つまり、期待値が高すぎると、それに見合う現実を手にしない限り、不満を感じやすくなる。反対に、現実のハードルを適切に設定できる人は、小さなことにも満足し、機嫌よく過ごせる。
人間の脳は予測マシン
私たち人間の脳は、常に未来を予測している。
人間の前頭前野は、これから何が起きそうか常に予測している。
次に何が起きそうかといった考えや先入観なしで各瞬間と向き合うよりも、予測しておくほうがはるかに効率的だからだ。
脳は最初に予測的なシナリオをつくるが、現実に合わせて常時シナリオを調整している。そしてシナリオと現実が合致すればするほど、わたしたちの気分は良くなり、エネルギーの消費量も少なくなる。
──『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』より
この仕組みを考えると、機嫌がいい人と悪い人の違いは、「自分の予測と現実をどう調整するか」にかかっていると言える。
自分の思い描いていたシナリオ通りに物事が進まないときに、柔軟に受け入れて適応できる人は、現実とのギャップによるストレスを感じにくく、結果的に穏やかに過ごせるのだ。
いつも機嫌がいい人が持つ考え方
本書によれば、いつも機嫌がいい人は、物事の捉え方に特徴があるという。
まず、期待をコントロールし、「こうなるはずだ」と高望みしないことが大切だ。「こうだったらいいな」くらいの心持ちでいることで、現実とのギャップが小さくなり、不満を感じにくくなる。
また、現実を柔軟に受け入れることも重要だ。予測と違う出来事が起きたときも、「こういうこともある」と冷静に対処し、変化を前向きに捉え、新たな可能性を模索できる人は、ストレスを感じにくい。
さらに、小さな喜びを見つける力を持っている。期待を大きくするより、「今あるもの」に目を向けることで、日々の中に満足感を見出しやすくなる。例えば、天気がいいだけで気分が上がる、好きな飲み物をゆっくり味わうといった些細な幸せを大切にすることが、機嫌よく過ごす秘訣だ。
機嫌の良し悪しは、生まれつきの性格だけで決まるものではない。期待と現実のギャップをうまく調整し、予測と現実を柔軟にすり合わせることで、より穏やかで前向きな気持ちで過ごせるようになる。
今日から、「期待しすぎず、現実を受け入れる」ことを意識してみてはいかがだろうか。
※本稿は『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』の内容を一部抜粋・編集したものです。