今はなにかと「生きづらさ」を感じる時代。しんどい現実を変えていくのは難しいですが、「捉え方」を変えてみたら、気持ちはスッとラクになります。
その方法を教えてくれるのが、書籍『不自由から学べること』です。12歳からの6年間を「修道院」で過ごした著者が、あらゆることが禁止された暮らしで身につけた「現実のしんどさがラクになる考え方」を紹介。悲観でも楽観でもない、現実に対するまったく新しい視点に、「気持ちが軽くなった」との声が寄せられています。この記事では本書より一部を抜粋・編集し、「深い悲しみに陥った心の整え方」を紹介します。

【深い悲しみが訪れたら】最愛の兄を亡くした少女を救った「心の整え方」とは?Photo: Adobe Stock

深い悲しみが押し寄せた「ある冬の日」のこと

 私が15歳のときでした。
 幼い頃から体が弱かった兄の病が悪化し、いよいよ入院することになりました。

 当時、兄はまだ25歳と若かったため、快復してくれるだろうとは思っていましたが、状況は深刻でした。修道院では月に一度しか外出が許されないため、お見舞いには数える程度しか行けませんでした。

 それは、1月8日になったばかりの夜中でした。今でも鮮明に覚えているのは、その日が高校受験の日だったからです。

 前日は危篤の兄がいる病院にかけつけ、いったん帰宅しました。その後、少し勉強をして、眠気があったもののなぜか寝付けませんでした。

 すると1本の電話が入り、電話を受けた長兄から、こう伝えられました。

「亡くなったそうだ」

 私は夜通し泣いて、寝たのか寝ていないのかわからない状況で朝になりました。少し雪が降りそうで、吐く息の白さや、かじかんだ手の痛みを感じたのを覚えています。

それでも受験に向かった理由

 それでも私は、朝を迎え、高校受験の会場に向かいました。

 もちろん、兄の死が哀しくなかったわけではありません。
 兄は末っ子だった私の面倒をよく見てくれました。

 私にとっては父親のような存在でもあり、憧れの存在でもあった兄が亡くなったのですから、まだ現実味はなくとも、心の底には大きな喪失感がありました。

 だからこそ、ひとりになって感傷に浸ってしまうと私は深い闇に堕ちてしまうと思い、あえて予定どおりの1日を過ごそうと考えたのです。

「習慣」の世界に逃げ込む

 人間は基本的に、ネガティブな生き物だと思います。
 悪い将来を予期して不安になるし、悲しい過去を振り返ってしまいます。

 だから暇があれば、余計な思考のなかに沈んでしまいます。

 でも「やること」があれば、そういったネガティブなことを考える暇がなくなります。
 いつもと同じように食事をしたり、会話したり、お風呂に入ったり寝たりするだけで、どうしようもない事実から視線を逸らすことができます。

 怒りや哀しみ、憎しみに包まれそうになったとき、それを手放すのは簡単ではありません。無理に明るく振る舞うのもつらいでしょう。

 それなら習慣の世界に逃げ込み、いったん「無心」になってみてください。
 
すると、時間が悲しみを風化させてくれます。

 やりたいことができず、いつも同じ毎日を過ごしていた。
 そんな不自由な世界が、苦しみの多い人生を生き抜くための知恵を教えてくれたのです。

(本稿は、書籍『不自由から学べること』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。書籍では他にも、「しんどい現実がラクになる考え方」を多数紹介しています。)