日常生活の会話ではあり得ないほど大げさな彼らのリアクションですが、これがスムースに私の発言を引き出してくれる。互いに顔を見合わせて話していると、言葉だけでなく、時には表情、時には身振り手振りを交えて、いちいち驚いてくれる二人。彼らの一つ一つの反応は、かくも語り手の気持ちを盛り上げるものなのかと、私は身をもって実感しました。
相手の話を引き出すために不可欠なこと
この体験から私が導き出したのは、コミュニケーションでは、話し手は、聞き手のリアクションに影響を受けるものであり、表情を伴った「驚き」には大きな力があるということです。藤井隆さんと濱田マリさんのお二人にとっては当然のことだったのでしょう。
普段、他人と話す際に「驚いてみせよう」と意識する人はまずいません。だからこそ彼らはプロなのであり、一般の会社員同士をテレビカメラの前に立たせても、こうした円滑な会話にならないのは自明です。
実際、聞き上手な人というのは総じてリアクションに長けた人であり、「驚き」は最も簡単に演じることができる手段なのではないかと思います。
話者にリアクションを返すよりも、静かに傾聴するのがマナーとされる場面もあるでしょう。しかし、顔を突き合わせたコミュニケーションの場では、相手の話をうまく引き出すためには、聞き手の表情の伴ったリアクションが不可欠なのです。
日本の弁士であり、漫談家としても活躍した徳川夢声氏の名著『話術』(新潮文庫)において、いくつもの番組でMCを務めた久米宏さんが巻末に、次のような解説を寄せています。
「この本を読むと、話し方が上達する。それは恐らく間違いない。間違いなく、少しは上達するはずだ。しかしそれよりも遥かに上達するには、人の話を聴く力が大切だと説いている」
これは実に含蓄のある文章だと感じます。そういえば一時期、私が取材の一環でタクシーに乗るたびに運転手に話を聞いていた際も、後ろのシートに身を預けて話しかけるより、少し運転席側に身を乗り出して軽く笑顔を浮かべて話しかけたほうが、彼らはより多くのことを語ってくれたものです。
私の表情や態度から、タクシーの運転手たちは「自分の話をちゃんと聞いてくれているんだ」と肌で感じていたのだと思います。