どうすれば、自炊をラクに続けられるのか?
買い物、レシピ、調理、献立、片付け……。初心者だろうと、日々料理を作る人だろうと、平等に立ちはだかる壁。「料理を勝手に難しくしているのは自分です」と語るのは、料理を体得したミニマリスト・佐々木典士氏と、自炊料理家の山口祐加氏。新刊『自炊の壁』では、初心者がレシピなしで料理できるようになるステップを完全網羅している。自炊に悩むすべての人に向け、本書の内容の一部を紹介する。

【ミニマリストが教える】「面倒くさい」を克服した、たった1つの方法Photo: Adobe Stock

家事は「めんどくさい」自分と
向き合う時間

佐々木典士(以下、佐々木) ぼくは以前、キッチンをきれいに保つための掃除も皿洗いも、とにかく意味のない行為に思えて嫌だったんですよね。きれいにしてもきれいにしても汚れるし、すっ飛ばせたら嬉しいプロセスだと思っていたんです。汚れた皿もよく放置していて、自分の先延ばしグセの象徴のようでした。

でも好んではやりたくないものを、きっちりとこなす心地よさのほうがいつしか勝ったんです。毎日毎食発生してしまうことですけど、やったら終わることですからね。たとえば原稿は書いても書いても「2歩進んで100歩下がる」みたいなことが多いので。

山口祐加(以下、山口) メールも返せば返すほど、送られてきますからね(笑)。ひとつひとつ「やり終えた」という感覚を感じるには、家事はいいですよね。

佐々木 習慣の本を書いたときに気づいたのは、やりたくないと思う行為は、やり終えたときに意志力が増すということなんです。何かすると意志力がただ減るんじゃなくて、「めんどくさいと思っていたけど、できた」と自分を肯定的に見ることができると、次のめんどくさいものにも取りかかれるという。

山口 それは本当に佐々木さんの大発見だと私は思いましたよ。他にも、たとえば炒め物って中火で1分ぐらいは放置しても焦げないので、その間にちょっとしたボウルや調理道具の洗い物を済ませられる。料理はタイムマネジメントの練習にもなるし、うまくいくと「決まった!」という感じで嬉しいし。

行為に主従関係をつけない

佐々木 禅宗では、トイレに行くのも修行なんですよね。ぼくがずっとそうだったんですけど、どうしても仕事、読書、文章を書くなどいかにも大事そうなことに重きを置きがちで。その大事なことを、掃除や皿洗いなんかの些末な家事が邪魔しているという発想がずっとあったんです。

でも大切なのは、行為に主従関係をつけないことかもしれないと思います。瞑想や、座禅を組むことだけじゃなく、トイレに行くことも修行になりうる。毎日の洗い物も「めんどくさいと思う自分と向き合う時間だ」と考えると、洗い物を溜めなくなったんです。

「つまらない」と思えば、つまらない

山口 私も含めてですけど、本当に流れ作業として掃除や洗い物をしている人がほとんどだと思うんですよね。「早く終わらないかな」という気持ちで。でもそういう気持ちで取り組んでいても、つまらないのは当たり前ですよね。

佐々木 時間に余裕さえあれば、洗い物もマインドフルネス的で楽しい。そして「めんどくさい」シールをいろいろなものに貼り続けていると、本当にスマホを見ること以外のすべてがめんどくさいものになってしまうような気もします。

頭の中を整理する時間としての家事

山口 現代人は頭の中が忙しすぎる問題もありますよね。あれもやんなきゃ、これもやんなきゃという状態のときに、何もせずただ座って瞑想してっていうのも、なかなか酷だとは思うんです。そういうときに、手を動かしながら頭をすっきりさせることができる機会だと思って、掃除や洗い物に取り組んでみてもいいと思いますね。

夫と一緒に住み始めた頃、よく洗い物を一緒にやって「気持ちいいよね」って声がけしてました。「片付くって気持ちがいいね」って。

(本稿は、書籍『自炊の壁』を一部抜粋・編集したものです。本書では、料理のハードルを乗り越える100の解決策を紹介しています)

佐々木典士(ささき・ふみお)
作家/編集者
1979年生まれ。香川県出身。雑誌「BOMB!」「STUDIO VOICE」、写真集や書籍の編集者を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに「Minimal&Ism」を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は26か国語に翻訳され80万部以上のベストセラーに。『ぼくたちは習慣で、できている。』は12か国語へ翻訳、累計20万部突破。両書とも、増補文庫版がちくま文庫より発売。
 
山口祐加(やまぐち・ゆか)
自炊料理家
1992年生まれ。東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳の頃、共働きで多忙な母から「今晩の料理を作らないと、ご飯がない」と冗談で言われたのを真に受けてうどんを作ったことをきっかけに、自炊の喜びに目覚める。現在は料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や執筆業、音声配信などを行う。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』(ダイヤモンド社)など。