レシピ多すぎ、コスパ悪すぎ、献立ムズすぎ、皿洗い嫌すぎ……! 忙しい日々に追われ、自炊の壁を感じている人は少なくないのではないだろうか? しかし私たちが料理をする意味は、美味しさ、健康、節約だけでなく、気分転換、侘しさ解消、生き抜く力が身につくなど、想像以上に大きい。「人生100年時代、自炊を学ぶメリットは無限大」だと気づかせてくれる書籍が『自炊の壁』だ。著者は、料理入門中のミニマリスト・佐々木典士氏と、自炊料理家の山口祐加氏。立ちはだかる料理の悩みを言語化し、“レシピ以前”の解決策を提案する一冊から、その内容の一部を紹介する。

【年収が半分になったら…】仕事を頑張らなくても生き抜ける最高スキル・ベスト1Photo: Adobe Stock

自炊スキルこそ、一生の武器

佐々木典士(以下、佐々木) 料理は、いちばん大切なはずの身体と健康を作るスキル。でもなぜか、そこまで熱心に学ばれようとしていない気がします。仕事の役に立ちそうなもの、英会話や今でいえばAIなんかのほうが話題になりがちだし、自分も重要視してきたように思います。でもふと立ち止まって考えると、料理のほうが全然優先度が高いんじゃないかと思ったり。

山口祐加(以下、山口) 私も本当にそう思います。まず「生きようよ」と思うんです。仕事も大事だけど、まずは自分が健康でないと仕事もできないですからね。食事を作ることは、呼吸したり歩いたりするのと同じレベルで、ベースにあるものなのに。

佐々木 食事と健康の因果関係がわかりづらいのもあるかもしれないですね。ジャンクフードを食べたらすぐに病気になるわけでもないし。「それなりに味に満足できて、お腹が満たされればいい」と思われている節がありそうです。

料理というセーフティネット

山口 自炊のスキルがあれば、世界中どこに行っても料理ができちゃうことがすごいなと思うんですよ。塩が売っていない国はないですからね。私の年収が半分になり、今まで買えていた豚バラは買えず、買えるのは豚こまだけ、という状態になったとしても、その中で工夫すればいいやと思えますし。

佐々木 どうしても教育にお金がかかる子どもと違って、大人になってしまえば雨露凌げる家があって、食べ物があったら生きていける。「食材は世界にたくさんあるし、それを適当に作れば食べていける」。料理を覚えると、コスパを超えてそんな安心感を与えてくれますね。

山口 コロナ禍では、外食しようにもレストランが閉まっていた時期もあって、自炊力が試されましたよね。日本では災害も多いし、避難しなきゃいけないときにも役立つはず。自分のためにも誰かのためにも、セーフティネットの役割を果たせるのが、料理というスキルだと思います。

(本稿は、書籍『自炊の壁』を一部抜粋・編集したものです)

佐々木典士(ささき・ふみお)
作家/編集者
1979年生まれ。香川県出身。雑誌「BOMB!」「STUDIO VOICE」、写真集や書籍の編集者を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに「Minimal&Ism」を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は26か国語に翻訳され80万部以上のベストセラーに。『ぼくたちは習慣で、できている。』は12か国語へ翻訳、累計20万部突破。両書とも、増補文庫版がちくま文庫より発売。

山口祐加(やまぐち・ゆか)
自炊料理家
1992年生まれ。東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳の頃、共働きで多忙な母から「今晩の料理を作らないと、ご飯がない」と冗談で言われたのを真に受けてうどんを作ったことをきっかけに、自炊の喜びに目覚める。現在は料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や執筆業、音声配信などを行う。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』(ダイヤモンド社)など。