レシピ多すぎ、コスパ悪すぎ、献立ムズすぎ、皿洗い嫌すぎ……! 忙しい日々に追われ、自炊の壁を感じている人は少なくないのではないだろうか? しかし私たちが料理をする意味は、美味しさ、健康、節約だけでなく、気分転換、侘しさ解消、生き抜く力が身につくなど、想像以上に大きい。「人生100年時代、自炊を学ぶメリットは無限大」だと気づかせてくれる書籍が『自炊の壁』だ。著者は、料理入門中のミニマリスト・佐々木典士氏と、自炊料理家の山口祐加氏。立ちはだかる料理の悩みを言語化し、“レシピ以前”の解決策を提案する一冊である。本書の一部から、佐々木氏による「はじめに」を特別公開する。

料理できる!とは全然言えなかった過去
「そうですね、いちおう自炊はしてますね……」
料理のことを聞かれても、自信がないから歯切れが悪い。
大学生になりひとり暮らしを始めたとき、料理を覚えようと思った。買い込んだのは、肉じゃがやら、ハンバーグやら「基本」のメニューが載ったレシピ本。
慣れ親しんだ実家の味とは違うが、レシピを見ればどれも美味しく作れた。
まだ作ったことのないレシピのページを開き、「基本」の料理を次々にマスターする、そうすればいつかは料理上手になれるのではないか?
しかし……いつまで経ってもレシピがないと作れない。細かい分量も覚えられる気もしない。
それでもたまには奮起して、レシピ本にある食材を買い揃える。用途がはっきりしている「新品」の食材たちはまだいい。何かの料理を作った後、余った食材で何を作ったらいいのかわからず、冷蔵庫で野菜はしなしなになっていった。
そんな風に、料理上手への道は、ぼくにとって長らく謎に包まれたままだった。料理はあまりにも複雑すぎるものとして、いつも遠いところにあった。
そうして編み出したのが、毎日同じものを食べる、という方法だ。朝はパンにサラダにヨーグルト、昼は玄米と卵焼き、ぬか漬けのお弁当。夜は味噌汁と、少しの肉を焼く。
栄養的にはなんの問題もなく、体調もすこぶる良かった。スーパーに行っても、切らしている食材を補充すればいいだけ。簡単簡単。
ひとりなら、確かにそれでも良かった。しかし歳を重ね、人より随分遅れて、ようやく誰かと共に生きることを決意したとき、改めて料理と向き合いたいと思った。