
中国は、南シナ海と台湾海峡の波立つ海からヒマラヤ山脈の凍(い)てついた尾根に至るまで、容赦ない拡大戦略を展開している。戦争と平和の間のあいまいな領域で活動し、アジア全域に覇権を広げようとしている。
また、各方面の活動を慎重に調整し、本格的な紛争に発展しない程度にとどめている。それでも、徐々に係争地域に深く入り込んで対立国を疲弊させ、ボディーブローのようにじわじわとダメージを与えている。
中国は、戦闘機による偵察、海警局(沿岸警備隊)船による活動、さらには新たな民間入植地を徐々に建設するなどで、安全保障戦略家たちが「グレーゾーン」と呼ぶ領域で絶えず境界線を押し広げている。対立国が許容できる行動の限界を試し、新たな行動を起こすたびにその内容を少しずつエスカレートさせている。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、長年の船舶移動データ、衛星画像、飛行追跡情報、その他の中国の活動指標を検証した。これらを総合すると、対立国を威嚇し、中国の支配を深めることを目的とした戦術が明らかに強化されていることが分かる。
南シナ海
中国のグレーゾーン戦術を如実に示しているのが南シナ海だ。中国は同海域のパワーバランスを徐々に変化させ、支配的な勢力となった
この海域を巡っては多くの国が主権を主張しているが、緊張状態を招いている主な要因は、中国が南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張していることにある。そのため中国は、同海域の主権を主張する他の6カ国と対立している。また、世界貿易の重要な動脈が中国の「湖」になることを望まない米国との緊張も生んでいる。
中国は10年以上前から一連の段階を経て、南シナ海の支配を強めてきた。