
「生き方や感情は顔つきに現れる」という楠木新さん。著述家として多くの人を取材し、さまざまな「顔」に接してきた経験から、いつしか「顔の研究」がライフワークになったと言います。『豊かな人生を送る「いい顔」の作り方』第11回は、いくつかの「顔」を使い分けることで、生き方を楽にするコツについて考察していきます。
二つの顔を持つことで
オンとオフを分けられる
先日、日経新聞の『私の履歴書』に掲載された、漫画家の一条ゆかりさんの記事に非常に感銘を受けました。そこには、日頃から私が強く主張したいことが述べられていたからです。
一条さんは、本名とは別にペンネームを持つことのメリットを語っていて、本名は藤本典子であると明かしています。つまり、漫画家の「一条ゆかり」は、一般人である藤本典子さんがプロデュースする女優のような存在で、二つの顔を使い分けることで、さまざまな恩恵を受けたというのです。
例えば、仕事をサボりたくなったときには、プロデューサーである藤本典子さんが「あなたはプロでしょうが!」と厳しく制する。そしてひとたび原稿を描き終えれば、藤本典子さんは休みに入り、一条ゆかりさんは束の間、解放されて遊び呆ける。だから漫画を描いている最中と遊んでいる時は人格が変わるのだそうだ。
要は、二つの顔が、オンオフを切り替えるスイッチとしての役割を果たしている。一条さんは「結果としてペンネームがあってよかった」と語っています。これはわが意を得たりの思いでした。
というのも、私の筆名である「楠木新」もまた、本名ではありません。私は40代後半にうつ状態で一旦会社を休職して快復の後に、その経緯をまとめた本を出版することになりました。楠木新とは、この時に生まれた芸名であり、私のもう一つの顔です。
本を出すことを当面は会社に伏せておきたかったこともありますが、会社の役職や立場とは関係なく、自分の腕一本で勝負したいと考えたからです。