「生き方や感情は顔つきに現れる」という楠木新さん。著述家として多くの人を取材し、さまざまな「顔」に接してきた経験から、いつしか「顔の研究」がライフワークになったと言います。『豊かな人生を送る「いい顔」の作り方』第2回は、採用面接における「顔」の役割が、時代とともにどう変わってきたかをみていきます。これからの就活で大切な「シンプルで原始的」なこととは?(著述家、元神戸松蔭女子学院大学教授 楠木 新)
90年代前半
企業の採用意欲は旺盛
私が大手生命保険会社で採用責任者を務めていたのは、まだバブル景気の余韻が冷めやらぬ、1990年代前半のことです。役職としては人事課の課長代理で、志望する大勢の学生の中から、誰を採用するのかを決める実質的権限を与えられた立場でした。
当時はどこの企業も採用意欲は旺盛でしたが、昨今のように誰でもが応募できる仕組みではなくて、いわゆるリクルーターと呼ばれる若手社員が後輩の大学生に声をかけ、選考の母集団を大きくする活動を担っていました。
この時代は、インターネットはまだ就活戦線に登場していません。集められた入社志望者は、顔と顔を突き合わせて行う、何回かの面接によって内定者を決めていきました。当時はメールもなく、企業と学生間の連絡は固定電話を中心に行われていました。
選考対象は、一定の大学や過去の採用実績のある大学に限られていることが普通でした。「指定校制度」と批判の対象にもなっていました。企業側は、偏差値の高い大学に必ずしも優秀な人材が集まっているわけではないと分かっています。しかし人事部や他部課の人員を動員しても限られた人数の学生としか面接することができません。そのため事前に一定の範囲の学生に絞っていたのです。
もともと人の「顔」に関心を持っていた私は、睡眠時間も削りながら、次々に相対する学生一人一人の顔に注目して、どのような表情で何を語るのか、興味深く観察していたものです。しかし、そうした採用の在り方も、2000年代以降にインターネットが登場すると、大きく様変わりしました。