根底にある国際課税の原則の対立
「源泉地原則」のアメリカは少数派
なぜアメリカは、日本の消費税やヨーロッパの付加価値税を非難するのか?
それは国際課税における基本原則をどう考えるかの違いによる。
これについては昔から「仕向地原則」と「源泉地原則」という考えが対立していた。前述した自動車に対する課税は、「仕向地原則」と呼ばれる原則で国際課税のあり方を考えた場合だ。
これは、商品やサービスが消費される国で課税されるべきだとする考え方だ。この原則による場合、輸出国での課税が免除され、代わりに消費国で課税されるべきだとされる。
これに対して「源泉地原則」は、商品やサービスが生産された国で税を課すという考えだ。この原則に従うと、商品やサービスはその源泉地で課税され、輸出後の消費地での再課税は行われない。だから輸出免税は認めない。
源泉地原則を採ると、生産地国の税率によって競争力が影響を受ける可能性があるため、いまでは仕向地原則が望ましいとの考えが支配的だ。日本やヨーロッパを含む世界の大勢が「仕向地原則」を是とし、WTOもこれを是認する。
特にEU内では、商品やサービスが自由に流通するため、消費される場所での課税が公平とされている。そして、付加価値税が消費される各国で適切に徴収されるようになっている。
これに対してアメリカは、伝統的に「源泉地原則」を是としてきた。トランプ大統領の考えも、その影響を強く受けている。
アメリカが源泉地原則を支持する理由は、アメリカがグローバルなビジネスの中心であり、多くの大企業が海外にも活動を広げているため、国内での利益保護と税収の確保が重要視されるからだ。また、連邦レベルの消費税が存在しないこともある。
つまり、消費税が非関税障壁だとアメリカが問題視するのは、アメリカの税制が仕向地原則になっていないことによる。本来は、アメリカが付加価値税を導入すべきなのだ。
“コメ700%課税”は過去の数字だが
日本は農産物輸入で大きな障壁
ただし、以上で述べたことは、今後も仕向地課税の原則が望ましいということを意味しない。例えば、国境を越えてデジタルサービスが行われている場合は、消費国で適切に課税するのは困難だ。
OECDやG20での議論の結果、恒久的施設を持たない多国籍IT企業に対して、その企業が収益を獲得した市場国に一定の課税を認める国際課税ルールが多くの国で合意されているが、トランプ政権は反対している。ヨーロッパ 諸国が独自に行っているデジタルサービス税も報復関税の対象にするなど、デジタル課税問題では議論がなお続きそうだ。
日本にとっての大きな問題は、日本が農畜産物に関して大きな障壁を設けていることだろう。
アメリカはこの問題にも言及し始めた。レビット米大統領報道官は、3月11日の記者会見で、「日本は、コメに700%の関税を課している」と批判した。700%は過去の数字であり、現在はこれより低いが、コメに関しては、低関税の「ミニマム・アクセス」以外の輸入分はかなりの高関税であることは確かだ。日本の制度に大きな問題があることは間違いない。
日本が抱えている本当の難しい問題は農産物の輸入制限である。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)