『週刊ダイヤモンド』3月29日号の第1特集は「階級社会の不幸」です。日本の格差問題が岐路に立っています。不十分な賃上げと、非正規雇用の固定が、日本を衰退の道へ導こうとしています。元凶はもうかってもため込み、賃上げも人的投資も国内投資も怠った大企業にあります。中でも割を食ったのが就職氷河期世代です。特集では「貧しい国家」に成り下がりつつある日本の実態に迫ります。
「退職金増税」は氷河期世代から!?
上の世代の“逃げ切り”に猛反発
「また就職氷河期世代いじめだ」。3月上旬、インターネット上ではこんな怨嗟の声が飛び交った。

きっかけは3月5日、参議院予算委員会での石破茂首相の発言だ。同じ企業に長く勤めるほど優遇される退職金の課税制度について、「適切な見直しをすべきだ」と明言したからだ。
退職金課税を巡っては、政府は2023年の経済財政政策や改革の基本方針「骨太の方針」で見直す方針を示したものの、「サラリーマン増税だ」との猛反発を受け岸田政権は見直しを断念。25年度の税制改正でも、退職金課税の改正は見送った。
予算委の質疑では、自民党の宮沢洋一税制調査会長が退職金課税について、「猶予期間が10~15年は必要だ」と発言したことも指摘された。10~15年後は、氷河期世代の退職が始まる時期に重なる。上の世代に“逃げ切り”を許し、氷河期世代から退職金増税が始まりかねない理不尽に不満が爆発したのだ。
氷河期世代は上の世代に踏みつけられたという被害者意識が強い。それは単なる個人的な感情論ではない。過去も現在も未来も、他世代と比べると悲惨な世代間格差がついている。
40代前半男性の平均年収600万円割れ
おまけに手取りも30年前から大幅減
氷河期世代の苦しみの始まりは、その名が示す通り就職だ。1991年のバブル崩壊をきっかけに、企業は採用数を一気に絞った。
一時は80%を超えていた大卒の就職率は93年から急低下し、最悪期には55%まで落ち込んだ。給料が高い大企業は狭き門。4割以上の学生が就職できず、非正規雇用の道を選ばざるを得ない人も続出した。年功序列の賃金制度が今なお残る日本で、社会人生活の始まりのつまずきは尾を引く。
働き盛りの40代前半で、民間企業に勤める男性の平均年収を世代別に見ていくと、上の世代では超えていた600万円の水準から氷河期世代は大きく割り込んでいる。一時はピーク時と比べて84万円減と、給与2カ月分に近い大差がつけられた。
さらに、身を粉にして働き収入が増えたとしても、つらい世代間格差が待ち構える。同じ額面年収であっても、税金や社会保険料の負担増で、上の世代と比べて自由に使える「手取り」が減ったのだ。
例えば額面年収1000万円で、妻と15歳以下の子ども2人を扶養する45歳の会社員の手取りを試算すると、95年は799万円だった。ところが25年の手取りは723万円で、76万円も少ない。