レシピ多すぎ、コスパ悪すぎ、献立ムズすぎ、皿洗い嫌すぎ……! 初心者だろうと、日々料理を作る人だろうと、平等に立ちはだかる自炊の壁。時間も余裕もないのに、どうすれば自炊を続けられるのか?「料理を勝手に難しくしているのは自分です」と語るのは、料理を体得したミニマリスト・佐々木典士氏と、自炊料理家の山口祐加氏。新刊『自炊の壁』では、初心者がレシピなしで料理できるようになるステップ100を完全網羅している。「気持ちが楽になった」「自分のための本だ!!」と話題が広がる本書から、内容の一部を紹介する。

資本主義に抗うのが「自炊」?
佐々木典士(以下、佐々木)なぜ料理が、こんなに敬遠されるようになったんでしょうね?
山口祐加(以下、山口)大げさに言えば、自炊することは、資本主義の仕組みと戦っているようなところもあります。今は一分一秒でも時間が生まれたら、ついスマホを見たくなって、コンテンツ産業に時間を奪われてしまう。料理はそこから少し距離を置いて、自分に食べさせていく、自分の命を生かしていく行為ですね。
佐々木 資本主義の枠組みでは、すべての作業を分業したほうが効率的ですよね。岡本太郎は、絵画だけではなくて彫刻や建築や民族学など、なんでもやった人ですけど、その理由を「人間の職業分化に反対だからだ」って言ってたんですよ。
山口「本職? 人間だ」ってやつですね。
佐々木 何かの仕事をするときに、作業が単調であるほど覚えやすく、誰でもできる。だからできるだけ作業を小さい単位に分けて、担当する仕事だけに集中したほうが、効率は高まるのかもしれない。
高度成長期に、女性が家事を一手に担っていたときもそうだと思うんです。そのほうが料理の質も高まりやすかったはず。でも今は、単身世帯が増えて、共働きも多くなって料理を一手に担える人が少なくなってきた。
だから、料理というものが家庭を超えて、さらに外部の専門的な人に集中的に任され始めている、ということかもしれません。効率だけ考えたら、野菜を育てる人、それを切る人、調理する人、食べる人の役割は、きっちり分かれていたほうがいいでしょうからね。
山口 人より機械が切ったほうが速いですからね。
佐々木 家庭の小さい鍋で作るよりも、給食センターがデカい鍋で作るほうが効率的だし、もっと大きな企業が工場でまとめた作ったほうがさらに効率的。
でもそれは経済の論理で、人間が本来どうありたいかとはまったく別の問題ですね。自炊をするために必要なのは、岡本太郎のような考え方かもしれません。
「コロッケ」がもう作れない理由
山口 食材を無駄にしてしまうという罪悪感も、自炊を避ける理由として大きいですね。ひとり暮らしだと、どうしても大根とかキャベツとか、1回では使い切れなくて余っていく。でも毎日自炊できるわけじゃないから、ダメにしてしまったりする。
学校給食でもそうですが、日本人は、食べ物を残しちゃいけない、無駄にしちゃいけないという意識をすごく強く持っていると思うんです。でもその罪悪感があると、なおさら自炊から離れてしまうかもしれないですね。
佐々木 確かに「自分はすぐに植物を枯らしてしまう」と思っていたら、新たな植物は買いづらい。でも無駄が出ないことだけを目的にすると、誰かに工場でまとめて管理してもらったほうがいい、ということになってしまうかもしれません。
山口 手間のかかるコロッケを1個だけ食べるために、じゃがいもや玉ねぎ、ひき肉、卵、パン粉を買って作るのは本当に労力に見合ってないと、私も思います。私は家に人が来ても、コロッケは面倒だから作りません。ハンバーグが限界(笑)。
佐々木 おでんの卵1個だけを作るんだったら、コンビニで買ったほうが確かにいいかもしれない(笑)。それでも手間や面倒、コスパやタイパを超えるものが、自炊にはあるのではないか? ということを本書で伝えていきたいと思います。
(本稿は、書籍『自炊の壁』を一部抜粋・編集したものです。本書では、料理のハードルを乗り越える100の解決策を紹介しています)
作家/編集者
1979年生まれ。香川県出身。雑誌「BOMB!」「STUDIO VOICE」、写真集や書籍の編集者を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに「Minimal&Ism」を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は26か国語に翻訳され80万部以上のベストセラーに。『ぼくたちは習慣で、できている。』は12か国語へ翻訳、累計20万部突破。両書とも、増補文庫版がちくま文庫より発売。
山口祐加(やまぐち・ゆか)
自炊料理家
1992年生まれ。東京都出身。出版社、食のPR会社を経て独立。7歳の頃、共働きで多忙な母から「今晩の料理を作らないと、ご飯がない」と冗談で言われたのを真に受けてうどんを作ったことをきっかけに、自炊の喜びに目覚める。現在は料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」や執筆業、音声配信などを行う。著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)、『軽めし 今日はなんだか軽く食べたい気分』(ダイヤモンド社)など。