「体験ゼロ」の割合は
世帯年収で大きな格差

 今井氏が2022年10月に行なった「子どもの『体験格差』実態調査」では、習い事や地域のお祭り、家族旅行なども含めた学校外での「体験」がゼロだという子どもたちの割合を世帯年収別に調査した。その結果、「体験ゼロ」の子どもの割合は、世帯年収600万円以上の家庭と世帯年収300万円未満の家庭とを比較したときに2.6倍の格差があることが判明した(下グラフ)。

「幅広い体験を味わう機会が少ない子どもたちは、魅力的な選択肢が目の前にあっても気付くことができず、そこに関心を向けられなくなってしまうのです。このような子どもたちの興味関心の幅を広げ、新しいことへの挑戦を促すためには、子ども自身の体験の絶対数を増やすことが必要になってきます」

 今井氏が取材した1つの事例を紹介しよう。困難を抱える子どもたちを支援する沖縄のNPO法人が、活動の一環として沖縄の子どもたちを北海道旅行へ連れていく機会があった。彼らにとって初めての旅行だったが、どこに行きたいかと聞かれても地元の沖縄にあるようなゲームセンターやチェーン店のレストランを挙げ、普段の生活とまったく同じことをしたがるのだという。

「一度もやったことがなければ、それが好きなのか嫌いなのかの判断すらできません。子どもたちにとっての想像力の幅、選択肢の幅は大なり小なり『体験』の影響を受けています。低所得世帯の子どもたちは『過去にやった経験があること』の幅が狭くなりがちなので、そのために『将来やってみたいと思うこと』の幅も狭まる傾向にあります。子ども時代の体験が乏しい親は、自分の子どもに与える体験活動も少なくなることがわかっており、こうして貧困は世代間で連鎖していきます。子どもの貧困問題の根底にあるのが、体験格差なのです」

 低所得家庭への生活面の支援は必要不可欠であることは間違いない。だが、体験の欠如が生む貧困の連鎖を断ち切るためにも、社会全体として子どもの体験の重要性を知ってもらい、体験の機会を「ぜいたく品」として軽視せず「必需品」として保障していく必要があると今井氏は力説する。